小説

□孤独の決意
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「じゃあ、今晩はさっさと休んで明日から気合入れていくぜぃ!」というシドの例に違わぬ前向きな号令で会議は締められた。それぞれ席を立ち客室へと戻る。

「クラウドのトコ、行かなくていーの?ティファとバレットだけに任せちゃってさ」

部屋に戻るなりユフィがそう口を開いた。いつもは女性陣三人で相部屋だが今晩はエアリスとユフィ二人だけだ。発せられた言葉はもちろんエアリスに向けられたものだ。エアリスは可愛らしく首を少し傾げると僅かに微笑んだ。

「ティファとバレットが見ててくれるなら安心、じゃない?そんなに心配ならユフィこそクラウドの所、行って来ていいよ?」

「ちーがーうーよっ!アタシが何も気付いてないと思ってんの?いつものエアリスなら絶対真っ先に自分がクラウド見とくって言うじゃん!」

ユフィが犬のようにキャンキャンと騒ぐ。しかし『何も気付いてないと思ってんの?』とはきっとエアリスのクラウドに対する恋心のことだろう。バレていたか、と内心舌を巻きながらエアリスはそれを悟られないようにクスクスと笑ってみせる。

「フフフ、何のこと?ユフィ、早くシャワー浴びて、ね?明日寝坊しても起こさないよ」

エアリスがそう誤魔化すとユフィは「とぼけちゃって!ま、アタシにはカンケーないけどさ!」と言いながら勢いよく浴室へと入っていった。

−−−関係ないって言ってる割に、何で怒ってるのかな……。

エアリスは最もな疑問を抱きながら椅子に腰掛け、机に向かった。置いてあるメモとペンを手に取った。ユフィはシャワー浴びるの早いから急がないと、と思いながらもエアリスは自分の考えと、仲間への謝罪、自分の気持ちをなるべく適切に手短に紙にしたためていく……。

ちょうど書き終えたところでユフィが浴室のドアを開ける音がしたのでエアリスはさっとその紙を折り畳み、枕の下に隠した。「エアリス、シャワー浴びたよ〜」というユフィの声が背後からかかる。
それに頷くとエアリスは立ち上がり、自分も浴室へと向かった。


二人ともシャワーを浴び終え、寝る支度が整うと、エアリスが部屋の電気を消した。そして先ほど文字を書いていた紙を枕の下から机の上へ移動させた。部屋は既に暗いのでユフィはそれに気付いていない。二人ともベッドに入り、何分か経った頃、ユフィがポツリと「クラウド……、大丈夫かな」と呟いた。

「やっぱりユフィも心配、なんだ?」

「あ、当たり前じゃん!まあティファやエアリスほどじゃないかもしれないけどね……。ねえ、クラウド、どうなってるの?何がどーしちゃったの?」

ユフィが寝転んだまま体ごとエアリスの方を向いた。エアリスも顔だけユフィの方を向く。暗くてよく見えないが、仲間たちの前では見せなかった不安そうな表情をしているユフィが、エアリスには感じとれた。

「ごめんね、私もよく、分からない。でも、きっと大丈夫。クラウドだもの。それより、早く寝よ?明日寝坊しちゃうよ」

「今日のエアリスは寝坊寝坊ってウルサイなぁ……。クラウドのとこにも行かないし……。今日のエアリス、変なの」

今日のエアリスはクラウドの話題を避けている、とユフィは思った。何となく誤魔化そうとしている。エアリスに多少の異変を感じながらも、それを聞くこともなくユフィは眠りについた。もちろん気にはなったが、それ以上に疲れていた。それに、どうせ明日からも一緒にいるのだ。わざわざ疲れている夜に聞いても時間の無駄だし答えてくれるかもわからない。

そう、ユフィはエアリスとずっと一緒にいると思っていた。いや、ユフィだけでなく、他の仲間も当たり前に、明日からも全員共にいると信じていた。次の日の朝になるまでは。
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