小説

□君の声が聞こえたら。
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ヴィンセントとユフィは忘らるる都を探索していた。
先ほど仲間の1人であるエアリスが、この場所で星に還ってしまった。しかし悲しんでいる暇はない。北へ向かうというセフィロスの発言を手掛かりに彼を探し出しメテオを防ぐ必要がある。仲間たちはいつも通り3チームに分かれてそれぞれに行動することにした。ヴィンセントとユフィは念のため忘らるる都をもう一度探索し、何か今後の手掛かりになるものはないか見回ってから北に向かう手筈になっている。

ヴィンセントは横で黙ってひたすら大手裏剣を振り回す忍者娘を不思議そうに眺めた。エアリスが刺された直後はクラウドに抱きついて大泣きし、かと思えばその後は自分がおかしくなったら止めてくれと頼むクラウドに、いつも通りの口調で「アタシに任せな!」と笑顔さえ見せていたのに、今はただ黙ってモンスターを狩る機械のように動いている。短時間でこの気分の変わりようは何なのか。先程の笑顔は仲間を安心させるための演技だったのか。この若い娘はそんな他人を気遣うようなことをする性格であったか……。

どれにせよヴィンセントには関係のない話であったがしばらく二人で行動することを考えると少し気が重くなるのだった。
ヴィンセントも必要なとき、必要なこと以外は喋らない性格であるためしばらく沈黙が続いた。

ある程度都を探索し終わり、エアリスが眠る湖の前まで二人は戻ってきた。手がかりになりそうなものは何一つとして見つからなかった。古代種にしか分からない言葉や文字で、この都は溢れていた。もう北へ向かうか、とヴィンセントが口を開こうとしたとき、長らく黙っていたユフィが「あのさ」と口を開いた。その声は少し震えている。ヴィンセントはユフィが泣いているのかと思いユフィの方に視線を向けると、意外にも声とは裏腹に表情は凛としており真っ直ぐヴィンセントを見つめていた。

「何だ」

「ヴィンセントに言ってもどうしようもないかもしれないけど、話していい?」

「あまり時間はない。手短にするなら聞いてもいい」

ヴィンセントが素っ気なく答えたにも関わらず、ユフィは気にも止めずアリガト、と呟くとエアリスが沈む湖のすぐそばにしゃがみこんだ。透き通った水面にユフィの姿が儚く揺れている。

「アタシが大泣きしてたとき、シドに励まされたんだ、落ち込み過ぎるな、エアリスはきっと自分たちを見守ってくれてる、自分たちのそばにいる、出会えてよかったと思ってくれているはずだ、ってさ」

ユフィはそう言うとゆっくりと立ち上がり、ヴィンセントをじっと見つめた。いつもの軽口を叩いている少年のようなユフィとは一味も二味も違う、脆くて今にも崩れてしまいそうな儚い少女の表情をしたユフィがそこにはいた。

「ヴィンセントは、どう思う?エアリスは本当にシドが言ったとおりのこと思ってるかな?」

ヴィンセントは腕を組みしばらく考え込んだ。きっと物事を真っ直ぐ考え過ぎるこの若い仲間に、きっと一時の慰めのような言葉は意味がない。そしてユフィが求めていることは慰めや励ましではなく、ヴィンセント自身の意見であると彼は察した。

「私は、死者と会話する能力は持ち合わせていない」

ヴィンセントはつい先ほどまで生きていた仲間を死者呼ばわりするのは気が引けたが他に適当な表現が見つからなかった。ユフィが少し眉をひそめたが構わず先を進める。

「だから私にはエアリスが今何を思っているのかは分からない。生前、そのような話もしたことはない」

ヴィンセントは言い終えてから少し自分の言動を後悔した。ヴィンセントの言葉に嘘偽りはなかったが、時に現実は人を傷つけ過ぎる。ヴィンセント自身それをよく知っている。一緒に戦っているとは言え、やはりユフィはまだ16歳の子どもなのだ。そう思ってヴィンセントはユフィの顔を改めて見つめた。しかし意外にもそこにあったのは先ほどまでの苦しそうな顔をしたユフィではなく、どこかほっと安心したような表情を浮かべるユフィだった。

「アタシと、一緒だ」

その声は安堵のため息のようなものと同時にヴィンセントの耳まで届いた。しかし何がどう一緒なのか、どうしてここまで安心した顔をしているのか彼は理解できずにいた。ユフィはごめん、やっぱり少し長くなる、と前置きして、その理由を話し始めた。

「昔、アタシの故郷、ウータイで戦争があったって言ったじゃん?アタシが物心ついたときにはもう始まってて、11歳になった年に終わった。すごく長くて、激しくて、無意味で、そしてウータイは神羅に負けた。アタシが知ってる人が何人も死んだんだ。そしてその度に、オヤジや母さんや、たくさんの人に『死んだ人はみんな空からユフィを見守ってくれてるよ』って言われた。でも、そうかな?本当にそうかな?死んだ人たちはまだ生きたかったはずなのに、絶対まだ生きていたかったはずなのに、死んだ途端、生きているアタシたちのことを見守る立場になってくれるの?もしかしたらまだ生きていけるアタシたちを憎んでるかもしれないじゃないか。見守ってくれてるとか、そんなの、生きてる側のエゴだと思うんだ。でもそうやって言い返したらいつもオヤジにゲンコツされてたよ。だからアタシは言い返すのをやめた。だけど、さっきエアリスが死んじゃって、シドにいつかのウータイの人たちと同じことを言われて、久しぶりにあのときと同じ気持ちになった。エアリスはもっと生きていたかったよね?アタシはよく知らないけど、小さい頃神羅に捕まって、ずっと不自由だったんだろ?こんなに世界中を自由に巡れて嬉しいって、前言ってたんだ。それに、アタシはエアリスに何もしてあげてない。エアリスがアタシに『出会えてよかった』なんて思ってるとは、思えないんだ」
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