小説

□My alone
1ページ/4ページ


────ピンチのときは、助けに来るって、約束したのに………

自分の声が、頭の中でうるさく何度も響いていた。




自分の瞼なのに信じられない程重たい。それでも何とかして目を開くと視界に飛び込んで来たのは一面の白色だった。眩しい、と思った。どうやら自分は寝転んでいるらしいということだけが理解できた。ああ、私、きっと死んだんだ、ここは天国なんだ。そう思って体を起こそうとすると胸のあたりに激しい痛みが襲った。たまらず体を元に戻す。


「あ、起きた!」

横から女性の声が聞こえた。何の根拠もないが何故か母だと思った。ママ、と呼ぼうとしたのに声が出ない。喉がうまく振動しない。顔だけで声がした方を向くと、そこにいたのは母ではなく───

「今、先生呼んでくるから。少し待っててね」

ナース服を着た看護婦だった。20代後半に見える整った顔立ちのその女性は、そう言い残すと足音と共に消えた。そこで全てを悟り、そして絶望した。私は死んでない、生きている。ここは病院。目を覚ましたとき見えた一面の白色は無機質な天井だった。私だけが助かった。父は殺された。村の人たちも死んだ。故郷は燃えて失くなった。

よく見ると自分の腕から管が伸びているのが分かった。点滴だ。


やがて先生と呼ばれる中年男性が入ってきた。服装からして医師であることは明白だった。医師は安心したようにほっとため息をつき、優しそうに微笑んだ。

「やあ、初めまして。君はここで一週間も眠り続けていたんだ。目を覚まして安心したよ。自分の名前は言えるかい?」

前にもこんなことがあったと思った。そのときは母が死んで、二ブル山の向こうに行けば母に会えると勘違いした。

橋が崩れてそこから落ちたようだが、前後の記憶が曖昧でよく覚えていない。しかしそれに限っては今回も同様であった。

「ティファ・ロックハート……です」


久しぶりに空気に触れた喉は不自然に震えてティファらしからぬ少し低くしゃがれた声が出た。それでも声が出たことに安心した。そして動いている自分の心臓にうんざりした。なぜ自分一人生き残ってしまったのか不思議でたまらなかった。

「ティファちゃん。君には話さなきゃいけないことがたくさんある。気分はどうかな?お腹が空いているなら食事が先でもいい。まだきついならもう一度寝てもいい。どうしようか?」

「大丈夫です。話してください。何がなんだか、全然分からないので」

医師の言葉にティファは間髪入れずに答えた。実際何がなんだか分からなかった。そんな状態で食事が喉を通るわけもなければ落ち落ち寝てもいられない。

話された内容は、まずここはミッドガルだということ。医師の友人が傷だらけのティファを背負って突然この病院にやって来たこと。その友人は決してティファに自分の名前を言わないでくれと頼んで治療費だけ置いてどこかへ去ってしまったこと。その者にティファに細かい事情など聞き出したりせず怪我の回復に専念させてやってくれと頼まれたこと、などだった。

ティファは話を聞き終えると礼を言い、眠くもないのに「少し寝たいので一人にしてください」と言って医師を追い返した。目を閉じて言われたことを整理する。どうしたらいいか分からなくて涙すら出なかった。ティファは15歳にして天涯孤独の身になったばかりか故郷まで失ったのだ。これからの自分の人生に僅かな希望さえも見出せなかった。見ず知らずの土地、それも故郷を奪った神羅が産み出した都市で生きて行かねばならないのだ。

ふと、手で布団を持ち上げ、服を捲り自分の胸元を見た。痛々しい傷跡がそこにはあった。きっと一生消えないだろうと思いため息をつく。英雄、と呼ばれた銀髪のソルジャー、セフィロスにつけられた傷。しかしそれは充分大きなものとは言えティファの予想したそれより遥かに浅かった。ティファは覚えている。刀が自分の胸を切り裂いた痛みを。辺り一面に広がっていく鮮血を。死を覚悟したその瞬間、黒髪のソルジャーが大剣を持ちセフィロスに向かって行くのが微かに見えたことを。そのあとの記憶は全て断片的で不明瞭で、全てが夢のような気もするし全てが真実のような気もした。

あれだけの傷を負ってなぜ出血多量で死んでしまわなかったのか、どうしてこんなに傷跡が浅いのか、ここまで自分を運んで来た人物は一体誰なのか、頭の中は疑問でいっぱいだった。ズキズキと痛むその傷跡が、生きているという絶望感を刺々しくティファに伝えていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ