小説

□My alone
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それから2ヶ月ほどティファはその病院に入院し、怪我の回復に専念した。痛みは消え、日常生活には支障が出ない程度に傷も塞がっていた。しかし、問題はここからだった。

「ティファちゃん、今まで詳しい事情は聞かなかったが、君の入院中、誰一人として見舞いに来ることがなかった。きっととても遠い所から来たのではないかな?そして、不躾な質問で申し訳ないが、ご家族は………いるのかい?」

すっかり馴染みの顔になった中年の医師は、退院の日取りが決まったその日の夜、ティファの病室に来て聞いた。

「はい、とても遠い田舎の村から来ました。家族は、いません。故郷も、もうないんです」

入院中に、医師はティファは何やら特別な事情があると悟っていた。モンスターではない、明らかに人口の刃物で切られた胸の傷を抱え、ボロボロの衣服を着てここに来たのだ。ティファはとても明るく、病院の医師や看護師と気さくに話していたが、自分の話は何一つとしてしなかった。

「じゃあミッドガルに親戚や友達はいるかな?そうでなくとも、頼れそうな人は」

ティファはそう言われて思案を巡らせた。小さい頃仲良くしていた友人は何人かミッドガルに来ているはずだった。しかし電話番号も住所もわからない。それらが記されていた手紙は今頃ニブルヘイムで灰になっているはずだ。彼らが今何をしているかも曖昧だった。名前一つでは広いミッドガルでは調べようもない気がした。その旨を伝えようとしたその時、ティファの頭に一人の人物がよぎった。

金色の髪をツンツンに立たせた、背の低い、男の子……。

「クラウド……」

そう呟いてはみたものの、彼だってソルジャーになっているのか分からない。現に故郷であるニブルヘイムへの任務にクラウドがやって来ることはなかった。ソルジャーでなくとも神羅に入社している可能性は大いにあったが、会うのは躊躇われた。故郷を奪った会社に勤めている彼にどんな顔をして会ったらいいか分からない。

「クラウド?」

怪訝そうに医師がティファの顔を覗き込んで言った。

「いいえ、何でもありません。ミッドガルには特に知り合いも親戚もいないです」

口にした途端、薄れかけていた絶望が再びティファを襲った。そうだ、自分は一人ぼっちなのだと痛いほど思い知る。退院したところで、行く当ても生きる糧も、何もないのだ。

医師は軽くため息をついて「そうだろうね」と囁くように言った。そしてティファに向かって優しく微笑んだ。

「これは、僕の提案なんだけど、聞いてくれるかい?嫌なら嫌だとはっきり言ってくれて構わない。ただ、お互いに悪い話ではないと思うんだ」

医師の提案というのは、ティファが入院しているこの病院の手伝いをやってみないか、というものだった。専門知識のいらない、食器洗いや掃除などの雑務をしてもらう代わり、病院の空き部屋を貸し出し、食事も出すとのことだ。

「そんな……悪いです……」

もちろんこれ以上にない提案だったが、ティファは首を振った。自分が役に立てるとは思わなかったし、ミッドガルから出て行きたいとも考えていた。行くあてもないが、生きる意味もないのだ。そのへんの荒地で力尽きたとしても、もう悔いはない。

「じゃあどうするんだい?君は15歳だ。仕事を見つけるには若過ぎるし、里親に引き取ってもらうには年を取りすぎている。いきなり外に出て生きていく術はあるのか?」

いきなり厳しい口調になって医師はティファに問いかけた。

「退院して、どうやって生活するか目処が立っているなら言ってみなさい。まさか、死ぬなんで言わないでくれよ。ティファちゃんをここに連れて来た人は僕の友人なんだ。その友人が命をかけて守った君を、怪我の手当をしただけでみすみす放り出す訳にはいかないんだ。お願いだよ。僕のためだと思ってくれればいい」

ティファは思わず溢れそうになった涙を堪えた。孤独を感じていた心が少しずつ溶けていく。もう少し、もう少しだけ、希望を持って生きてみよう。ミッドガルで、私は生き抜いてみせよう。ティファは自分に固く誓った。
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