小説

□My alone
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退院した次の日から、ティファの慌ただしい毎日が始まった。様々な雑用に加え、時間が空けば患者たちと話して回った。もちろん病院の関係者全員が彼女というイレギュラーな存在を認めたわけではなかったが、ティファは懸命に働いた。常に動いていないと悲しみに潰されそうだった。夜1人で寝る瞬間が毎日の一番嫌な瞬間だった。

ある朝、医師と看護師たちが何やら深刻そうな顔で話し込んでいるところにティファは居合わせた。

「どうかしたんですか?」

「あぁ、ティファちゃんおはよう。それが、いつも薬の配達をしてくれていた人が昨日モンスターに襲われてしまったらしくてね…」

医師が依然困った様子で受け答えた。ティファは知らなかったがこの病院はなかなか病院に足を運べない人たちのために定期的に薬の配達を行っていた。
どうやらモンスターに襲われ怪我をした配達員の代わりに誰を配達に行かせるかの相談をしていたようだ。

「私が行きましょうか?」

ティファがあっけらかんとそう言うとその場にいた全員が目を見開いた。

「そう言ってくれるのは有り難いんだけどね、配達場所はスラムも入ってるんだ。スラムは治安も悪いし最近モンスターが増加しているそうで危険なんだよ」

「大丈夫です、私、これでも格闘技できるんですよ。並大抵のモンスターなら負けたりしません」

医師の忠告を凛として跳ね返し、結局ティファが薬の配達に向かうことになった。
護身用のグローブを病院から借り、危険を感じたらすぐ帰って来るという約束の元、初めてティファはミッドガルの街へと一人で出かけることとなった。
ミッドガルの街並みはティファにとって衝撃的なものだった。ニブルヘイムとは似ても似つかない無機質な建物がびっしりと並び、演劇や映画の巨大な宣伝看板、そしてどこからでも目に入る神羅ビル。

冷たい街、とティファは思った。足早にすれ違っていく人々と薄暗い空が彼女をなんとなく寂しい気持ちにさせた。

ミッドガルの配達を何とか終え、最後にスラムへの配達が残っていた。場所は七番街スラム。スラムへと続く電車に乗り込み、ティファは久しぶりに地上に足をつけた。電車から降りて見た景色にミッドガルとは違う衝撃を受けた。ミッドガルのプレートに遮られてミッドガルより一層薄暗く、整備された道路などなかった。駅から七番街スラムはほど近く、思ったより危険は冒さず街へと入ることができた。

街の中にはいくつかの民家と店のような建物、そして建設中の飲食店と思われる建物があるだけの質素なものだった。

ティファは届け先らしき民家を探しドアをノックした。しかし反応はなく、呼び鈴のようなものも見当たらないので、すっかり困ってしまった。
留守なのだろうが、薬を置いていく訳にもいかず、いつ帰って来るか分からない届け主を待つというのも気が引けた。

「お、俺の家に何か用っすか…?」


そのとき、不意に後ろから声をかけられた。振り向くとそこに立っていたのはティファと同じ年頃の青年だった。赤い髪に派手なアクセサリー、いかにも不良と言ったところだ。

ティファは事情を説明し、薬を渡した。どうやら薬は彼の父のものらしく、青年は代わりに薬を受け取ると家の扉を開けようとした、が、鍵がかかっていたらしく扉は動かなかった。

「それにしても俺と大して年も変わらなさそうなのに病院で働くなんて凄いな……」

見た目の割に穏やかな口調で青年は言った。穏やかというより挙動不審気味ではあったが。

「あ、いいえ。看護師という訳じゃないの。色々あって……、ただのお手伝い。本当は早く他のお仕事を見つけて病院から出ないといけないのよね」

ティファはそう言うと「じゃあ、また来ます」と一礼してその場を去ろうとした。

「あ、えっと、待って待って!」

「何?」

「俺、ジョニーっていうんだ!えっと……親父かお袋が帰って来るまで家入れなくてさ、それで、えっとだから……」

いかにも初めてのナンパという感じで思わずティファは吹き出してしまった。こんな風に自然に笑ったのはいつぶりだろうか。

「私はティファ。そんなに急いでないから、ちょっとお話ししよう」


こうしてティファはミッドガルで初めての友達ができた(ジョニーは友達以上になろうと試みていたであろうが)。
ジョニーの父は定期的に薬を買っているらしく、ティファが7番街スラムに来る光景は段々と日常と化していった。
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