短編

□五色に祈り
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「七夕だもん、やっぱり笹に短冊掛けたいよね。」

昼間オレの家に来て寛いでいたネームは、そうひとりごちると颯爽とどこかへいってしまった。いつもそうだ、思い立ったらすぐ行動に移す。その行動力には感心するが何分無計画の行き当たりばったりだ、どうせ笹が見つからなくてすぐ帰ってくるだろう。洞窟を出たところに低い木が生えているからそれにでも掛けさせておけばいい。

…そう、考えていたのだが。
ネームは夕方になっても帰らなかった。

さすがに遅すぎる。短冊一枚掛けるためにどこまで行ったんだ。まさか笹を切りに行ったんじゃないだろうな。それともうちに遊びに来ていたことを忘れて家に帰ったとか…いや、そこまでマヌケでは…。

探しに行くべきか否か悶々としていると、

「シェゾーっ、ただいまーっ!」

洞窟の入口の方で声がした。よかった、帰ってきた。
オレがすぐに入口に向かうと、そこには肩に巨大な笹を担いだネームが立っていた。

「なんだ、それは」

「笹!」

「それはわかる。どうしたんだ?」

「近所のおじいちゃんにね、笹ほしいなーって言ったら自分の山から切ってきてくれたの」

さっきの予想、ニアピン。自分で切ってはいなかったが伐採してもらっていたとは。しかし豪快なじいさんだな、そしてよく持って来れたな。重くないのか?

「笹って意外に重くないんだよ。考えてみれば大きくても幹は細いし当たり前かもしれないけどさ」

心を読まれた。ネームは肩から笹を下ろしはい、と差し出してきた。咄嗟に受け取ってしまったが立てて見ると本当にでかい、ネームの身長を優に越えている。2、3メートルはあるだろうか…ん?

「おいネーム、これはなんだ?」

「え、なに?…あぁそれね、短冊だよ、みんなの」

「みんな?」

「そう。プリンプのみんな。せっかくこんなに大きい笹もらったのに、短冊が2枚だけじゃ寂しいでしょ?だから町中歩き回って、いろんな人に掛けてもらったんだよ」

なるほど。それで帰宅がこんなに遅かったのか。

「わたしまだ書いてないんだ。ね、シェゾも書きなよ!短冊まだいっぱいあるし」

部屋に戻ったネームは短冊を取り出し机の上に置くと、さらさらとペンを走らせはじめた。オレも笹を壁に持たせかけるように置き向かいに座る。

「はいどーぞ」

細長く切られた紙とペンを差し出すネーム。受け取ったものの何を書けばいいのかさっぱりだ。
ちらりと笹に目を向けると、そこには様々な願いが散りばめられていた。

【ステキな魔導師になれますように…☆】
【ムシほしい】
【ぜったい世界一の美少女になる!!!】
【王子がお城に戻ってくれますように】

等々…。視線を上へ上へと向けていくと、

「…ん?」

【 ア ル ル 、待 っ て い る ぞ 】

一際目立つその願い、もとい愛の告白は、てっぺんの1番目立つところに掛けてあった。あいつは笹を伝言板か何かと勘違いしてないか。

笹から自分の短冊に視線を戻す。ふむ。真面目に考えても仕方がないな。とりあえず何か書いて吊せばいいのだろう。オレはペンを手に取った。














「できた!」

オレが書き終わってから十数分後、ようやくネームもペンを置いた。机の上にはたくさんの短冊。その短冊には、

【世界平和】
【家内安全】
【無病息災】

在り来りな四字熟語たちが並んでいた。

「…ネーム、お前こんなのでいいのか」

「こんなのとは失礼な!それにこれはわたしのじゃないよ、短冊が余ったからみんなを代表して、ね。」

ネームはふふんと胸を張ったあと、わたしのはこっち、と別の短冊を取り出した。

「【ずっとプリンプにいられますように】…?」

「あ、あれ?こっちじゃないや。間違えちゃった」

「?」

何か書き損じでもあったのだろうか。ネームは慌ててその短冊をしまい、別のものを取り出した。

その短冊には、先程と同じようにネームの丸い字で

【ずっと一緒にいられますように】

と書かれていた。

「あのね、シェゾはいつか、元の世界に戻っちゃうかもしれないでしょ?ずっと戻りたがってるのも知ってる。だからわたしは、あなたにプリンプにいてとは言えない。わたしがそっちに行けたらいいけど、でも、わたしもプリンプに戻れなくなるのは嫌なんだ。
…一緒にいたいけど、どうすればいいのかわからない。だからね」

ネームは短冊に書かれた文字を、愛おしそうに指でなぞった。【ずっと一緒にいられますように】。

「これならきっと、織姫さまと彦星さまがなんとかしてくれるよ。なんてったってお星さまなんだから」

話終えたネームはしばらくその短冊を見つめたあと、こよりを通し笹の真ん中辺りに掛けた。
そのまま笹を洞窟の入口に持って行き、壁に立てかける。

「叶うといいよね、ここにある願い事全部」

「…ああ、そうだな」

色とりどりの短冊を載せた笹が、ざあ、と風に靡いた。









「ところでシェゾはなんて書いたの?」

「い、いや大したことじゃないから…ばっ、馬鹿、見るな!」

「なになに…、【闇の魔導師としてもっと精進したい】…シェゾってさ、意外とマジメだよね」

「うるさい、もういいだろ!それ以上は…」

「あれ、端っこにちいさく何か書いてある…【あともう二度とヘンタイと呼ばれませんように】…?」

「うわあああ!」



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