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□よりて来る日。
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(帰りたい…。)
真山恭一郎は、この場違いな所にいる自分と、そこら辺の女性グループに声をかけた若桜郁人を本気で恨んだ。
ここは小洒落たダイニングバー。
通知表の作成業務が終わり(若桜にはないはずだが)、同僚の一ノ瀬学と若桜と軽く打ち上げでもと決め込んだ。
(何であいつは外で飲むと必ず女に声をかけるんだ…。)
ため息をついてから、久保田 千寿の入ったグラスに軽く口をつける。
長身で整った顔立ち。
メガネのおかげか、多少無愛想にしていても「知的でクール」と勝手に解釈される。
その上、職業が高校の数学教師と来ていれば
このような場で、女性に声をかけられないはずがない。
今も、隣に座った女がなにやら一生懸命話しかけてくるが、失礼の無いよう社会人として良識の範囲の笑顔で対応している。
若桜に向かって帰りたいオーラを出してはみたものの、こちらに気がつくどころか振り向きさえしない。
(若桜め…。)
「真山さんって犬がお好きなんですね〜。素敵!どんな所が好きなんですかぁ?」
(鬱陶しい…。)
「飼い主に従順なところですかね?」
真山は、生徒用の営業スマイルで答えた。