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□熱中症
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「えっ!?九条先輩が、ですか!?」

「そう。お姫さま抱っこでね。
残念だなぁ…その場にいたら、俺が、お姫さま抱っこで運んできたのに、ね。」

(いや、そう言う問題じゃない!!
九条先輩からお姫さま抱っこされたなんて知れたら周りに何を言われるか…。)

藤城四天王の一人、九条生晋。
気高く、セレブな貴族系男子。
当然女子生徒からの人気も高い。
そんな彼と会話を交わしただけで
「あなた九条先輩の何なの?」と
彼を慕う女子集団に囲まれることもあったのに。
お姫さま抱っこで運ばれたとなると
何をされてしまうのか…想像がつかず空恐ろしかった。

(まだ、若桜先生の方がマシだったかも…。)

若桜には申し訳ないが、そんな不謹慎な事を考えながら。
ふと我に返った。

「ところで、どうして私はここに運ばれて来たんですか?」

ん?と、呟くと
若桜からそれまでの笑みが消え
真剣な表情になる。
普段はからかってるとしか思えない若桜がふと見せた真面目な表情。
それは、いつもとのギャップと相まって名前をどきりとさせた。

「熱中症、だよ?
君がグラウンドで倒れたから
九条がここまで運んできたんだ。」

「えっ!?そうだったんですか!?」

「そう。一応、ここで冷やして様子見て…。元気になってよかった。」

ふっと、柔らかく包み込むような笑顔を浮かべる若桜に。
(ああ、こんな優しい顔もするんだ…)
と、思わず見とれてしまっていた。

が、同時に頬に伸びてくる手に気がつき
反射的に軽く素手でぴしゃりと制す。

「ちょっと…!若桜先生っ!!
セクハラですよっ!?」

若桜はくすくす笑って
「手厳しいね?」とだけいうと、
伸ばしかけた手を引っ込めた。

(危ない、危ない。
「歩くエロス」は伊達じゃないわ…。
この思わせぶりのせいで何人もの女の子が泣かされたって噂だもんね…。)

あからさまに、不信感を醸している名前を。
くすくすと笑い、余裕たっぷりに
「俺って、信用ないなぁ」と言いながら。
立ち上がると、デスクに向かい
その引き出しから何かを取り出して
再び名前に向かい合った。
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