text

□[もしもOL]芹澤悠吏
3ページ/5ページ

「名前っ。」

名を呼ばれて振り向くと、
そこには名前の前任者で
今は副社長秘書を務めている一期上の先輩が立っていた。

(先輩、相変わらずお美しい…。)

上品なハーフアップにまとめた髪。
細いプリーツのふわりとしたスカートにボウタイブラウス。
華奢なヒールで歩く姿に惚れ惚れとしてしまう。
どこから見ても女子力高いこの先輩は
当然男性社員からの人気も高いのだが…。

「どう?棚卸し。上手く行ってんの?」
「まぁ、ぼちぼち、ですね。
先輩はどうしましたか?」
「ん?ボスいないし、気になったから名前の様子見にきた。
見たところ大丈夫そうだね。
ランチ行けそう?」
「はい。ぜひ!」

面倒見も良く、気さくでさばさばとしたこの先輩は
そのフェミニンな見た目に反し
姉御肌を通り越してそこら辺の男性よりも男らしく、女特有の裏表もないので名前は彼女がとても好きだった。

ランチに出られる程度に時間は取れたとは言え、繁忙期なので社外には出ず
社食で軽くパスタを食べることにした。

「聞いたよ〜。あんた、西園寺主任のプロジェクトチームに入ったんだって?」
今、頭がいっぱいの棚卸しではなく
頭の片隅に追いやられていた今朝の話を思い出し、名前はむせた。

「ええ、そうなんですよ。西園寺主任、すごいデキそうだしかっこいいしで人気あるのがわかる気がします。」
「うん。基本的に仕事ができない男は経営企画室にはこないからね。」

この先輩、さばさばしてるけど
仕事には厳しいからな…と、今更ながら苦笑を漏らす。

「ところで先輩。」
「なに?どした?」

この人なら知っているかも知れないーー
名前は思い切って尋ねてみた。

「あの、多分、システム部だと思うんですけど。
芹澤さんって、知ってます?」

先輩は目を丸くして驚いていた顔をすると、けらけら笑いだした。

「ああ!芹澤、同期だよ?何?
芹澤もプロジェクトチームなの?
まさか惚れた?」
「い、いえっ…!ただ、不思議だなぁと思って。」

名前の返事に腹を抱えて笑うと、笑いすぎて滲んだ涙を拭う。

(何でこの人こんなに中身と外見が違うんだ…。)

「芹澤、いい奴だよ。仕事は出来る方。
プレゼンや御前会議できちんとした格好するとまぁまぁイケメン、かな。
でも、やめときな?」

「はい?」
やめときな、の意味がわからずに聞き返す。

「あいつ、ガチのアニオタだから。
ヤバイよ?
ほっとくとキャラTとか着てくるから。危険だよ。」

「はい…?」

今まであまり関わったことがないタイプだと直感はしていたけれど
その理由が少しだけ理解できた気がした。

そこで、先輩の携帯が鳴り慌てて戻らなければならなくなったので
ランチはそこでお開きとなった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ