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□天王山の夏休み
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「芹澤先輩!」
名前が女神のような微笑みを向けるので、芹澤から自然と笑みがこぼれる。
「名前さん、こんにちは。
あっ、あのっ、一緒に食べてもいいですか?」
「はい、隣どうぞ。」
ベンチの隣を指差して彼女は微笑んだ。
(ああ、補習で殺伐とした心に射し込む一筋の癒し…!!)
芹澤は恐る恐る彼女の隣へ腰を落とす。
「先輩。夏休みなのに学校でお昼なんて、どうしたんですか?」
「今日は午前中に補習があって。午後からは図書館で自習するつもりなんです。」
「わぁ、そうなんですねー。
補習の後に自習ってすごいなぁ。
私はレポートをまとめようと思って図書館に来たんです。」
「そうなんですか!?あの、よ、良かったら午後から一緒に図書館で勉強しませんか?」
「ええ。ぜひお願いします。」
名前は柔らかく微笑むと、
じっと芹澤の顔を見つめた。
その眼差しに。その距離に。
芹澤は動揺を隠しきれない。
「先輩…ほら、口許に卵がついてますよ。」
名前は特段意識する様子もなく、
ごく自然に芹澤の口許についている卵を指差して指摘した。
「えっ!?あのっ、ど、どこ?ここかな?」
彼女が指したとおぼしき箇所を指で探れどもなかなか卵が見つけられない。
そんな芹澤の様子がじれったかったのだろう。
名前は自ら芹澤の口元についている卵をその白くて柔らかい指でそっと拭った。