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□とある午前中の保健室ver.明神
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保健室では、保健室の主はおらず
代わりに2-A担任の一ノ瀬学と
明神がかねてから思いを寄せている苗字名前がいた。
(こんなところで名前さん!
塞翁が馬とは良く言ったものだ。)
とろんとした熱っぽい瞳で一ノ瀬を見つめる名前を
心配そうに気遣う一ノ瀬。
二人の仲が睦まじい様に見えて、少し歯がゆく思う。
ぎゅっと唇を噛んだ明神には構わずに穂高は一ノ瀬に声をかけた。
「若桜先生は?」
「やぁ。穂高くんに明神くん。どうしたのかな?今日は若桜先生が出張でね。
利用の際は教科の担当か担任に声をかけて利用することにしてるんだよ。」
彼女に向けていた穏やかで包み込むような空気をそのまま穂高と明神へと向けた一ノ瀬に
(彼女が一ノ瀬先生の「特別」じゃなかったのか)
と安心した明神はほっと胸を撫で下ろす。
穂高は明神が実習中に怪我をしたことを告げると、一ノ瀬に断ってから医療道具を借りることにし、
明神の手当てを始めた。
「…っ!!染みる!穂高、もうちょっと優しく出来ないのか!?」
「おめぇも男ならこれくらいで騒ぐな。」
その様子を力ない微笑みで見守りながら。
名前は一ノ瀬に支えられながらベッドへ向かうとそのまま横になったようだ。
「あの、一ノ瀬先生。彼女は…?」
「ああ、世界史の時間に気分が悪くなったらしくてね。
先生が授業中だから空き時間の僕が連れてきたんだ。
熱があるみたいだから、とりあえず横になってもらって様子を見ようと思ってね。」
一ノ瀬が表情を曇らせると、
一帯が少し重たい空気に包まれた。
「おい、明神。手当が終わったら行くぞ?」
「あ、ああ。失礼しました。」
苦手な家庭科の授業に出るくらいなら、すぐそこで眠る彼女を見ていたいーー
そんな勝手が通るわけもなく、明神は後ろ髪が引かれる思いで調理室へと戻った。