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□[10年後のカレ]白川基
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「白川くん、頼まれていたデータ、持ってきたよ?」
「あ、苗字さん。いつもありがとうございます。」
あの図書館でのやりとりから早10年が経った。
あの時名前が投げ掛けた言葉がきっかけとなり
白川基は「多くの人の役に立つような科学の研究をしたい」と強く願うようになった。
様々な分野はあれど、より多くの人を救う可能性があり得意な化学の知識を役立てることのできる薬学を志し見事薬学部に合格した。
それからは、基礎医学や化学に加え一般教養。加えて外国語とレポート三昧。研究室に入ってからは実験三昧の日々。
ーー薔薇色の大学生活なんて、別世界の話だ。
薬剤師への道を目指す臨床へは進まず、
当たり前の様に大学院博士前期課程へと進んだ。
しかし、大学の研究室には残らずに製薬会社の研究所に勤めることになったのは24になってからだ。
入社してから3年目。
27になるその年に
研究所とも関わりの深い開発部に
他の部署からの異動でやってきたのが
高校時代に憧れていたものの結局想いを遂げることのできなかった苗字名前だった。