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□[10年後のカレ]白川基
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「本当に…苗字さんは仕事が早くて助かります。」
「ううん、そんなことないよ?」
「じゃあ、このデータ、ありがとうございました。」
「うん。また何かあったら遠慮なく言ってね?」

そう言うと、名前は開発部のあるフロアに戻ろうと階段へ向かった。

同じ会社にいながらも、入社年度が違えば
部署どころか勤務地も違うのでこれまで顔を会わせることすらなかった。

高校時代にほんのりと時折言葉を交わしたり、サンプル集めと称して喫茶店でデートをしたり…
どれも白川にとっては懐かしい眩い想いでなのだが
彼女は白川の存在を覚えていても、細々とした出来事などは忘れてしまったのではないかと思うと彼の胸はちくりと痛んだ。

それでも、業務以外に時間があれば(基本研究所から出ないので同じビルにいながら滅多に会うことはないが)時折言葉を交わす関係になった。
そのことが、高校時代にほんのりと戻ったようでどこか懐かしくもありくすぐったくもあった。

(僕は…この年にもなって、結婚はおろか女性と話すだけでもこんなにドキドキしてしまうなんて…)

情けない、と思う気持ちと。
それでも、業務であれど彼女に会えたことが嬉しく思えて研究所の中へ戻ろうとすると
急に、白川の目の前が真っ暗になった。
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