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□そうだ、映画に行こう。
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「本当は、おまえを誘って行くつもりだったんだけど…。
オレ、展覧会のメンバーに選ばれちゃってさ。
ちょっとしばらく行けそうにないから、この映画のチケット、おまえにやるよ。
いや〜、才能があるってツライなぁ。」
そう言いながら、隣のクラスの廣瀬櫂は。
名前に
今、大ヒット中で以前ちらりと廣瀬に見てみたいと話したこともあった
映画の前売り券を2枚手渡した。
「えっ…?本当に、いいの?」
「いーって。遠慮すんな。」
「廣瀬くん、ありがとう!」
「じゃ。オレ、今から部活だから。」
「うん。じゃあまたね。」
廣瀬は爽やかに笑うと片手をあげて美術室の方へと立ち去った。
(うーん…嬉しいけど、誰を誘おうかな。
クラスの友達にしようかな。
斗真は部活で忙しいから止めた方がいいよね?
…どうしよう。)
突然の幸運と新しい悩みでぽーっとしながら放課後の廊下を歩いていると、反対側から歩いてくる人にぶつかってしまい、うっかりチケットを落としてしまった。
「ご、ごめんなさいっ!大丈夫でしたか?」
「苗字。
廊下はよそ見しないで前を向いて歩きましょう。」
(うわっ…真山先生だ。)
しまった、というばつの悪そうな顔をしている名前をよそに、
真山は名前が落としたままにしている映画のチケットを拾い上げる。
「ほう…?君が、これを?」
映画のタイトルを確認した真山はチケットを凝視する。
「はい。2枚もらったので誰を誘おうか迷っていたんです。
そしたら、先生にぶつかってしまって…すみませんでした。」
真山は納得したようで、
一旦下を向き、メガネのブリッジを人差し指で押し上げると名前の方へ向き直った。
「そうでしたか。では、私が引率しましょう。
先程のように不用心な振る舞いは感心できません。」
真山からの突然の申し出に驚いたが
別に断る理由も見つからなかった。
「えっ…?あ、はい。よろしくお願いします。」
「では、これは私が預かっておきます。」
その場で約束を交わして、週末の土曜日に少し離れた駅で待ち合わせをすることにした。
(良くわからない成り行きだけど、真山先生の私服姿は楽しみだなぁ。)