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□彼女のわがまま
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「すみません…時間がかかってしまって。」

名前は、ゆっくりとその鍵を真山の手のひらに置いた。
小さな鍵が、ずしりと重く感じたのはそれだけの日々の重みだろう。

名残惜しそうに、彼女の指がなかなか鍵を離れない。
そうしている間に

ぽたり ぽたり

真山の手のひらに、暖かい雫がおちてくる。

「恭一郎さん…どうして…?」

注意して聞かないと聞き取れない、小さな声で名前は呟いた。

「嫌だ…!別れたくないっ!!」

従順で、物分かりの良い名前。
男を困らせるような、真山にとって不快なわがままなど一切言わない彼女が。
いつも、どこか感情を飲み込んで穏やかな顔をしているイマイチ本音の掴めない女が。

初めて、感情を剥き出しにして
自分と別れたくないと泣いている。

真山の感情を揺さぶらずにはいられなかった。
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