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□1月29日
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翌日の放課後。
予め、メールで白川を呼び出していたので待ち合わせしていた図書館前へ急ぐ。
すでに彼は図書館前の玄関で待っていた。
「白川くんっ!お待たせ!
…ごめん、待たせちゃった?」
白川は、持っていたスマートフォンから目を離してゆっくりと声のする方へ視線を動かすと。
名前の姿を認め、ふわりと優しい微笑みを向けた。
「苗字さん…。
いえ、さっき来たばかりなので気を使わないでください。
僕を気にかけてくれるなんて…
貴女は、本当に優しいですね。」
(そんな風に思える白川くんの方が優しい人だと思うんだけどなぁ…。)
白川の、優しい言葉にほっこりしていると。
忘れかけそうになっていた本題を切り出した。
「あの…白川くん。今日、お誕生日でしょう?
お誕生日おめでとう。
これ、ケーキ焼いてきたんだ。
良かったら、食べて?」
名前はおずおずと
ラッピングした小さな箱が入った紙袋を彼の目の前に差し出した。
白川は目を丸くして
えっ…と、小さく呟く。
その様子に、名前は不安に襲われた。
(迷惑だったかな?そうだよね…家族で準備するよね。)
「あっ…ごめん。迷惑だったよね…?」
慌てて引っ込めようとすると、
「いえっ!迷惑なんかじゃないんです…。
その、貴女が…あの、僕の誕生日を覚えてくれていただけでも、その…嬉しいのに…僕のために、わざわざケーキを作ってくれたなんて…ありがとうございます…。」
顔を耳まで赤らめて。
慌てて否定しながらも、ふわりとたおやかに微笑んでくれる。
「ううん…良かった。
じゃあ、また…お話、しようね?」
目的を達したので、別れようとしたところ
白川に引き留められた。
「あのっ、苗字さん!
良かったら…一緒に、あの、コーヒーでも飲んでいきませんか?
その、今日は部活が休みで科学室は他に誰もいませんし…気のきいたおもてなしはできませんが、ええと、せっかくですから…。」
名前は驚いて白川に聞き直した。
「えっ?白川くん、今日、大丈夫なの?
予定とかは…?」
彼はばつが悪そうに、しかし真っ直ぐに名前を見据えて答える。
「いえ…僕は特に。
せっかく、貴女が僕の誕生日を覚えてくれて。こうしてお祝いをしてくれたんです。
僕は、貴女にお礼がしたいですし。
…それに、今日という日だから、少しでも貴女と一緒にいたいんです。」
(えっ?そうなの?…白川くんがこう言ってくれるし、ケーキはホールだし、せっかくだから一緒にお茶しようかな。)
白川の誘いを受けることにした名前は彼へ笑顔で頷く。
白川は照れ臭そうに微笑むと、二人は科学室へと急いだ。