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□サクラサク
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「ここにしましょうか。」

名前の後をついていく形で、中庭のベンチに腰を下ろす。
テーブル越しに、彼女と向かい合う形になるのがなんとなくデートのように思えて気恥ずかしい。

そういえば、彼女と屋上で初めてランチをしたときには
テンパって大声で誘ってしまい、周りの注目を浴びて恥ずかしかったなぁ…と、懐かしい彼女との想い出が過った。

ふう、と軽いため息をつくと
彼女と共に手を合わせて、いただきますと唱える。

「先輩、卒業おめでとうございます。」
「あ、ありがとうございます。」
「3年生がいなくなると、学園が寂しいですね。」
「えっ…!?ああ、そうですね。でも、また新しい1年が入ってきますよ。」
「ふふ、確かに。」

そう穏やかに微笑んだ名前は、普段から自分の手作りだという色鮮やかなお弁当に箸をつける。

「先輩は、どうして今日は学校へ…?部活ですか?」

急に自分へ話題を振られてどきりとする。
コミュ障の自分には考えられないほど話がぽんぽん飛び出る名前と過ごす時間は、やはり心地よい。

「いえ、今日は進路の報告に…。」
「あっ、そうだったんですね!先輩は卒業後はどうされるんですか?」
「ええ、大学に進学します。」
「そうなんですね!おめでとうございます!
サクラ咲きましたね。」

自分の事のように喜んでくれる、そんな彼女の存在が嬉しい。

でも…

「ここの桜はまだ蕾ですね?」

名前はくすくすと笑った。

「ふふ、先輩。合格したら『サクラサク』って言うじゃないですか。
…でも、ここの桜も満開になると本当に綺麗ですよね。
あと臨海公園の並木道とかも…。
そろそろお花見の季節ですね。」

ふわりと笑う。

「お花見ですか。リア充は次々にイベントがあって大変ですねぇ…。」
「へっ…?」

目を瞬かせて怪訝な顔をして芹澤を見つめる名前に。
芹澤は、我に返る。

「あっ、いえっ、何でも…!つい心の声が。
その、お花見行かれるんですか?」

慌てて取り繕うと、彼女は普段と何ら変わらぬ優しい微笑みを浮かべた。

「うーん…特に予定はないんですけど。
行けたらいいな、とは思ってます。」
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