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□この行き場のない想いは
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国語や社会などと比較すると
「答えは一つ」と言われ、その単純明快さや無機質さがイメージされる数学。
だが、高校数学ともなればそのイメージはがらりと変わる。

虚数iの登場、「解なし」という正解の存在。
その底知れぬ不可思議さに魅せられる者もいれば
入り口から受け付けない者もいる。 

試験の答案もそうだ。
数百枚と添削をしていれば
その生徒が持つ字の得手不得手や
読みやすい解答か否か。
式のたてかた、途中計算の緻密さ
公式へのあてはめ
…それら全てに生徒個人の性格が出て非常に興味深い。

期末試験が終了し、職員室にて
数百枚にものぼる添削作業に追われながら
真山恭一郎はふとため息をついた。

(3年はこれで終わった。次は2年か。)

持っていた赤ペンの出が悪くなった。芯を入れ替えてから、2年生の答案の添削に取りかかる。

真山が誰よりも気にかけていた
ーまさか、自分が生徒相手にこんな感情を抱くことになろうとは夢にも思っていなかった
苗字名前の答案を見て
真山は凍りついた。

(こんなにできる奴じゃなかったはずだ。)

しかも、途中式の立て方なども
自分が授業で展開してきた「王道」とは若干異なる。

明らかに、「自分以外の誰か」の影響を受けたことが明白なその解答に。
少なからずの嫉妬と、
彼女が自分の手から巣立って行った、一抹の寂寥感。
そして、彼女の点数をここまで伸ばした者に対する、「より彼女に適した教え方」ができなかったという教員として致命的な敗北感。
どす黒い感情に支配された真山は、持っていた赤ペンをぐっと強く握りしめた。
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