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□真山先生と向井先生
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「聞いてるよ?名前ちゃん、でしょ?
向井センセーが、昼休みに、職員室に連れ込んで、いちゃついてたって。」

何でもお見通しと言わんばかりの顔をして、若桜郁人がバーボンの入ったグラスの氷をからんと鳴らす。
その艶やな瞳は、男の自分でも飲まれそうになる。

ここは、藤城学園近くの「いつもの店」。
教育実習に来ている母校で、先生同士の飲み会があるので一緒にどうか?と
誘ってもらえたので有り難く受けることにした。
学生の身分では覗くことのできない社会人ーーしかも、憧れの教員の飲み会とあって向井和樹は興奮を禁じ得ない。
普段友人たちと行く居酒屋ではなく、
このダイニングバーというロケーションも少し背伸びをした感じがして、それも彼の胸の高鳴りに拍車をかけていた。

今日は仕事が片付かないという理由で一ノ瀬と真山は遅れてくるというので、養護教諭の若桜と二人で先に始めていた。

(やっぱり、担任となると大変なんだなぁ…。
そうじゃなくて!今は誤解を解かないと…!!)

「いえ、俺…いやっ、僕は、生徒がお昼御飯を忘れて困っていたから…その「無理しなくて、いいよ?」」

言い終わる前に、若桜に制される。

(今さらだけど、この人、鋭い!)

「名前ちゃん、かわいいよね?俺も、あの娘、好きだなぁ。
俺も、実習で、似たようなこと、あったし…ね?」
「似たこと…ですか?どんなことがあったか聞いてもいいですか?」
「うん。指導教官がいなかったから、言い寄られた女の子と、ちょっとイイコトしてたら
一緒に、実習に来てた当時の彼女に、見つかってね…。」
「ええっ!?彼女と実習、ですか?」
「そう。大学の付属に行ったから…まぁ、修羅場だった、かな?ふふ、懐かしいね。」

若桜先生とは人生の経験値が違いすぎる!と変な驚きを隠せずにいる。

「いいんじゃない?向井先生は学生だし。
教師が生徒に、は犯罪になっちゃうけど…
大学生と高校生なら、問題、ないよ…ね?」

若桜はそう微笑むと手元のグラスに口をつける。

向井は、禁じられているであろうこの恋に背中を押してもらえたような気がして。
とても心強く感じた。

「あ、でも、真山先生には…言わない方がいい、よ?
あいつは変に真面目だから、そう言うの、許せない…かも。
特に…あ、来た。」

若桜は遅れてきた一ノ瀬と真山に気付くと
二人に向かって軽く手を挙げた。
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