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□冬の風物詩
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何でだろう、意識が朦朧とする。

苗字名前は
きっといつもの寝不足かな?と思い
授業のない空き時間(本来ならばこの間に次の授業の準備やら事務処理などをしなければならないのだが)に保健室で横になっていた。

そろそろ、6校時目の授業の時間だ。
起きなくてはーー

身体を起こそうとすると、目が回ってしまい思わず頭を抱えてしまった。

「ほら、もう…無理しない、の?」

同僚で養護教諭の若桜郁人が甘く優しく身体を支えながら声をかけてくれた。

「君のクラスで、インフルエンザが流行ってるから…それかもしれない、ね?
熱…測ろうか?」

甘く優しく囁かれると、熱のせいとはまた違うところで気持ちがふわふわしてくる。

彼が持ってきた体温計をありがたく受け取り検温すれば。
あからさまに高熱を示したので、その数字を見ただけで気分が悪くなった。
体温計を手渡すと、若桜は眉間にシワを寄せた。

「あーあ…すごい熱、だね?
授業どころじゃあ、ない…ね。
次、どこ?
俺が自習の指示、出してくる、よ?」

「はい…ありがとう、ございます…。」
「おやすみ。ゆっくりして…ね?」

彼は片手を上げて、颯爽と保健室を後にした。

(若桜先生は、色々噂があるけど、やっぱり優しくてかっこいいよね…。)

身体を起こすのもきつくて、また横になる。
遠退いた意識が戻ってきた頃には、既に夜の帷が降りていた。

「あれ…?今、何時ですか?」

ベッドのカーテンを開けると、若桜が物憂げに書類と向かい合っているのが見えた。

「あ…起きた?気分は、どう?」

名前に気がつくと、質問には答えず、ふわりと穏やかに微笑んでくれた。

「うーん…さっきよりは、マシ、です…。」

若桜はベッドの横まで歩み寄ってくると、名前がいるベッドへ腰掛けた。
 
「ふふ…良かった。
君が寝てる間に校医さんに往診に来てもらったんだ…。
インフルエンザ、A型、だって…。
勝手に薬飲ませちゃったけど、少し顔色は良くなった、ね?」

そう微笑むと、額に手を伸ばしてくる。

「まだ、下がりきってない…かな?」

頭がまだぼーっとするのは、
熱のせいなのか。それとも、こんなに近くにいるかっこいい同僚のせいなのかーー。

それが何を意味しているのかを悟って。
若桜が触れている額から、
意図せず身体が熱を帯びてくる。

(若桜先生…嫌だ、すごくドキドキさせられる。
でも、女泣かせなこの人が
私なんて絶対に本気で相手にしてくれるはずがない…。)

熱は測り終わったはずだ。
しかし、未だに離さない手のひらに、指先に、戸惑う。

「若桜、先生…?」

若桜ははっと気がついた顔をすると、
ふっと微笑んでから手をひっこめ…たかと思うと、今度はそっと頭を撫でた。

その意味が理解できない名前は、動くことができずにいた。

「ねぇ…名前先生?
もうちょっと、肩の力、抜きなよ…?
頑張りすぎると、また、倒れちゃう…よ?」

同僚の真山先生からは、何かと至らない所を指摘されることが多くて。
ちょっと、気を張っていたところがあったのかもしれない。
それが当たり前で、頑張っても頑張っても真山先生には怒られてばかりで…。
若桜先生は、私が頑張ってることを見てくれていたんだ…。
そう思うと、今までの頑張りが報われた気がしてほっとした。

「真山は…あいつは、完璧主義だから、煩く感じるかもしれないけど…。
名前先生の頑張りは、認めてると思うんだ…?」

だから…と、若桜は続けた。

「頑張りすぎなくて、いい…よ?
きつくなったら、いつでも、保健室に…おいで?」

頭を撫でていた手が耳を、頬を伝う。
若桜先生が触れたところから、ドキドキが止まらない。

「はい…ありがとう、ございます。」

高鳴る胸の鼓動が抑えられず、返事をするのが精一杯の私に
彼は優しく微笑みかけた。

「遅くなったから、送ってあげる、よ。
職員玄関で待ってるから、荷物…まとめておいで?」
「えっ!?そんな、先生に悪いです!」

慌てて遠慮すれば

「病人を、一人でなんて、返せない…な?」

そう艶やかに微笑まれるので、若桜の言葉に甘えることにした。

夜7時の保健室を後にして、
自分のデスクの荷物をまとめると。
どこか浮き足だった気持ちで、若桜の待つ職員玄関へと急いだ。

(End )

最後までご覧いただきありがとうございます!

今回、後書きは今のところありません(^_^;)

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