text

□4月1日
1ページ/2ページ

「あっ…誕生会かぁ…。ふふ、楽しそうだね。」

苗字名前は明神堅梧と共に入ったファミレスで通路を挟んで隣側にいる
子連れグループを見て目を細めた。

「誕生会…ですか。」

明神は興味なさげに頬杖をつき目線を向かいにいる名前へと移す。

「うん。小学生の時は、友達とお互い家に呼び合って誕生会してたなぁ。懐かしい。
…男子はそんなのしてなかったみたいだけど、明神くんは?」

明神は名前の問いかけに、答えにくそうに口元を歪めた。

「子供の頃の誕生会、ですか。
…俺、年度変わりの4月1日生まれで誕生日が春休み中なんです。
つまり、クラスが変わる前のタイミングで学校が休みなので、誕生会なんて、その…。」

目線を外して、言いにくそうにしている様に。
名前は申し訳なく思い、必死に話題を探し始めた。

(どうしよう、何か悪いこと聞いちゃったな…。)

名前がちらりと上目使いで明神を見遣る。

彼は名前の表情が曇っていることに気がつくと
慌てて名前をフォローした。

「いやっ…別に、誰だって誕生日くらいはありますし。
だいたい、1つ歳を取るだけの事にクラスの奴等をわざわざ呼んでパーティーなんて、やってられませんよ。」

(私に気を使ってくれるのはうれしいけれど、
それはそれで悲しい気がする…。)

どこか無理をしているような明神の言い方に。
名前の胸がちくんと痛んだ。

「じゃあ…今年の明神くんの誕生日は、私がお祝をしたら、だめかな?」

名前からの突然の申し出に。
彼がフリーズしてしまった。

(…嫌だったかな?悪いこと聞いちゃったな…。)

彼の態度を否定ととらえた名前は彼の負担にならないよう、彼が断りやすくなる言葉を続ける。

「あっ…ごめんね?
嫌だったらいいか「嫌なんかじゃありません!」。」

言い終わる前にもかかわらず明神からすかさず否定されたことに、名前は驚きを隠せない。

「えっ…?いいの?」
「もちろんです!君と二人で誕生日を過ごすなんて…。
マニュアルによれば誕生日は恋人と過ごすものとあります。
いよいよ俺たちも…
あっ!名前さん?どうしましたか?
…とにかく、俺の誕生日はぜひ、その…一緒に、過ごしてください!!」

(何かよくわかんないけど、喜んでくれてるのかな…?)

明神の勢いに圧倒されながら、二人はその日に向けて約束を交わした。

「あ、あの…指切りをしてもいいでしょうか?」
「うん、そうだね。」

名前はふわりと微笑むと、明神へ小指を差し出す。

彼はふっと微笑むと初めて名前と過ごす誕生日が甘い記憶となることを願って。
そうっと彼女の小指に自分のそれを絡めた。

(end )
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ