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□4月30日
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進級してようやく1ヶ月が経とうとしていた4月最後の日。
新しいクラスにも漸く慣れつつある連休の谷間のこの日は。
何となくクラス全体が浮き足だっており、担任の機嫌もすこぶる悪い。

(ああ…今日の課題も「魔王真山」のターンでしたね…。)

中休み前の授業の終わりに出された怒濤の課題の量に、クラス全体がどんよりとしていた。

そんな空気をものともせず、苗字名前が。
この男ばかりのクラスを尋ねてきた。
…弱冠周りがざわめいたのは、気のせいか。

彼女は戸口にいた鷹司に話しかけると、芹澤悠吏を呼び出したので。
教室内のざわめきがどよめきへと変化した。

「芹澤先輩、お誕生日おめでとうございます!
はい、これ。
先輩イチゴが好きって聞いたから…イチゴのケーキ、作ってきました!
…お口にあうといいんですけど。」

一瞬何のことだかよくわからなくて。
ぽかんとしてしまう。

しかし、今日オタ仲間からのラインやメッセージ、Twitterのリプを沢山もらったので、自分の誕生日であることくらいは把握している。

だけど。

「わわわわわっ!あ、ありがとう、ございます…。
本当に、ボクに、でしょうか?」

三次元嫁(仮)のこの可愛い後輩は。
少なくとも…個人的にデートを重ねたり、誕生日を祝ってもらったりするような
所謂「特別な間柄」ではなかったはずだ。

「本当に、ボクの誕生日を…?」

「ええ。他に誰がいるんですか?
…あれ?やっぱり、独り善がりだったかな…。」

キミがボクの誕生日を覚えていてくれて。
そして、キミがボクを祝ってくれる。

どうしてだろう。
仲間からのお祝いも嬉しかったけれど。
不意にもらった、キミの気持ちは。

ボクの心を支配して離さない。

「いえっ、あの…そんなことは全然ありませんからっ!!
…その、ありがとう、ございました。」

恥ずかしさのあまり、あまり上手くしゃべれない自分がもどかしい。

けれど、名前は。

「ふふ、よろこんで貰えて良かったです。」

そんなボクにさえ、蕩けるような甘い気持ちにさせてくれる優しい微笑みを。
その、暖かい言葉を。
惜しみ無く与えてくれるのが、くすぐったくてうれしい。

「あの、これ、今食べても大丈夫でしょうか…?」

震える声で彼女に尋ねれば。

「そしたら、中庭で食べましょうか?
今日は天気もいいですし。」

「中休みに天気の良い中庭なんて、そんなリア充みたいな事を…!!
は、はいっ!!ぜひともご一緒させていただきます!!」

名前は穏やかな笑みを浮かべると。
ぼくを中庭へと誘った。

春の穏やかな気候が、二人を優しく包み込む。

テーブルにつくと、途中の自動販売機で購入したミルクティーの缶を軽く合わせて乾杯した。

「先輩、お誕生日おめでとうございます!」
「えっ、あ、あの…ありがとうございます。」

キミの一点の曇りもないその澄んだ瞳に。
真っ直ぐ見詰められると、全てを見透かされてしまいそうでーー

ボクは、うれしさと恥ずかしさで紅潮する顔を悟られたくなくて。
名前からもらったケーキを。
ぱくりとおもいっきり頬張った。

(end )

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