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□花火の夜
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「お待たせ!明神くん。」
「こんばんは、名前さん。
…浴衣、とても似合ってますね。」
浴衣を着てくれたら嬉しい、という期待はしていたが。
目の前にいる浴衣姿の名前が想像していた以上にあでやかで、
明神は胸が高鳴る。
姫浴衣などではない、定番のクラシカルな浴衣に普段はおろしている髪をまとめ上げ、襟足から見えるうなじが堪らなく清楚なのに色っぽい。
(普段の彼女も可愛いけれど、今日の名前さんは格別だ。)
「あれ?明神くんは浴衣じゃないんだ。」
少し寂しそうに俯く彼女にきゅんとしながらも、明神は自信満々にその理由を述べた。
「ええ。もし…このような人混みが想定される中でなにかあった場合、機動を考えたら、男は圧倒的に洋服の方が対応しやすいと思いまして。」
名前は尤もである明神の言い分に耳を傾けると、それでも少し寂しそうな顔をして。
「さすが明神くんだね。
…でも、明神くんの浴衣姿も見たかったな。」
可愛らしいことを言うから。
明神は申し訳なさとたまらずに抱きしめたくなる欲求をこらえて。
「では、会場へ向かいましょうか?」
「うん、そうだね。」
彼女の向日葵のような微笑みに、どきりとしながら。
「会場は大変混雑が予想されます。
はぐれないよう、手を…つなぎましょうか。」
彼女に手を差し出すと。
「うん、そうだね。」
こちらに微笑みかけながら、きゅっと握り返してくれるので。
照れ笑いながらこちらからもきゅっと痛くないようにつないだ手に力を入れる。
彼女と視線がかちあうと、どちらともなく微笑み合う。
(漸く自然に手を繋げるようになったぞ。)
徐々にステップアップしていく二人の関係に。
明神は手応えを感じながら、花火大会の会場となっている河川敷へと名前を誘った。