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□出られなかったダンスパーティ
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(なんで、こんな時に限って…)

「痛っ…!!」
「名前、大丈夫?!」

(自分のタイミングの悪さが恨めしい。)

藤城学園では今夜、創立記念パーティが開催される。
教職員も含めて男性は黒のスーツ、女性はドレスアップして。
学園ホールにて行われる立食形式でのダンスパーティだ。

名前も当然参加するつもりで着替えを済ませた後友人とホールへと向かっていたのだが、
慣れない足元が見えにくいドレスとヒールの靴とのせいで
ホールへ向かう階段で足を踏み外して転んでしまった。

集合時間は押し迫っている。

まだ集合していない生徒がいないか、会場の外へ確認に出た3A担任の真山恭一郎と鉢合わせたのは運がよいのか悪いのか。

「苗字。あなたは…こんな所で座り込んで何をしているんですか?
もう集合時間です。早く会場へ向かいなさい。」

厳しい真山の口調に気圧されていると、隣にいた友人が真山に言い返した。

「真山先生。名前は足を挫いてしまっていて、動けないんです。
若桜先生を呼んで来ます!」

若桜を探しにいこうとした友人を真山が制した。

「君たちは先に会場へ行きなさい。
赤崎の事は教師である私が対応します。
せっかくの創立記念パーティです。
ここは私に任せて、生徒は行事を楽しんできなさい。」

朱音に申しわけなさそうに、友人たちは会場へと吸い込まれていく。
名前と真山だけが取り残されると、真山は徐にため息をついた。

「全く……おまえはどうしようもないな。」

俯きながら消え入りそうな声で彼女は答える。

「すみません。」

しばらくの沈黙の後、

「おい、ちょっと見せてみろ。」

真山は名前の痛めた足を確認する。
他意がないことはわかってはいるが、スカートの裾をわずかにめくられ履いていたヒールの靴を脱がされると不謹慎だがどきりとした。

「……腫れてるな。立てるか?」

真山に手を引かれて、脱いだ靴に足を入れてから恐る恐る立ち上がろうとしても、挫いた足が痛んで踏ん張れない。

その様子を見かねた真山は自らの腕で彼女を抱きかかえた。

「えっ…!?先生、これは?!」

所謂、お姫様抱っこで抱えられたので戸惑いを隠せない。

「感謝しろ。歩けないのなら俺が救護所まで連れて行ってやる。」

(まっ、真山先生の顔が近いっ!
すごくドキドキしてきちゃうし、お姫様抱っこなんて恥ずかしいっ……!!)

あまりのことに動揺して口が利けなくなった名前は。
からくり人形のようにこくこくと機械的に頷くと彼の顔から目をそらす。

真山はそんな男慣れしていない彼女の反応に満足すると、口元だけでニヤリと笑い
そのまま救護室として利用されている大広間隣の控え室まで連れて行った。
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