20000hit感謝企画

□心地よい時間
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「ここか…着いたな。」

会場のホテルまでたどり着くと
背中に回されていた腕が外され
なまえは心もとなく思う。
どうやら、顔に出ていたようだ。
真山は不安げななまえへ穏やかに微笑む。

(そういえば…結婚してから、真山先生が優しく笑いかけてくれる回数が増えたなぁ…。)

「くれぐれも、無理はしないように。
俺は教職員の受付に行くから、おまえはおまえで好きに楽しんでこい。」
「は、はい…。あの、恭一郎さん…?」
「何だ?」
「帰りは、どうしましょう?二次会とか出られます?」

真山はメガネのブリッジを人差し指で押し上げると、少し考え込んで

「好きにしろ。俺はこれだけにするつもりだ。
ただ…おまえの体調を考えたら長居は感心しない。」

とだけ言うと、会場フロアへとつながるエレベーターを降りた。

「なまえ!」
「ちょっと、夫婦でご登場!?」

エレベーターの扉が開かれると
少し大人になった懐かしい藤城の同窓生たちが、そこにはいた。

幹事の守部に声をかけられる。

「苗字さん…今は真山さんでしたね。
こちらで受付を済ませてから、ウエルカムドリンクを取ってそのままホールの方へお進みください。」

何年たっても変わらぬ守部の手際の良さが懐かしくて。
なまえはふわりと微笑む。

「ありがとう、守部くん。
本当に、しっかりしてるところは高校の頃から変わらないなぁ…。」

守部は高校時代に想いを寄せていた相手からの微笑みに。
彼女が、僅かにでも自分を記憶してくれていたことに。
心が疼くのを感じたが、思いとどまる。
ーーいけない、彼女はもう人妻なんだ。

なまえを手に入れた恩師を羨ましく思うも、顔には出さずに淡々と自分の仕事を全うする。

そうとは知らないなまえは。
学校を出て、化粧もお洒落も覚え
ドレスアップしている元級友たちの輪の中にいた。

まだ社会に飛び出したばかりの者が多いなかで
あっさりと…しかも相手は同じ高校の教師だ、と結婚しているなまえに話題が集まるのは必然だろう。
なまえは同窓生からの質問攻めにあっていた。

「ちょっと、いつから付き合ってたの?!」
「何歳差だっけ?」
「すご〜い!ねぇ、いつから結婚を意識したの?プロポーズは?」
「真山先生、かっこいいよね〜。私、憧れてたのに。」
「「えっ!?」」
「私は一ノ瀬先生だなぁ…。一ノ瀬先生はまだ結婚してないっけ?」
「うん、確か。若桜先生も独身だったはず。」
「若桜先生浮気しそうだからね〜。」
「「「言えてる!」」」

年齢は重ねているのに、このメンバーで集まると高校時代と変わらぬ
キャッキャと騒ぐ「女子ノリ」が楽しくて。
なまえも一緒になって笑っていたところ、一瞬足元がおぼつかなくなる。
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