本棚(長編)

□story2 彼女と彼の浮遊遊戯
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ふわり、ふわりと宙を舞う。

否、「舞う」という表現は少しずれている。というかそんなに華麗な感じではないし……。

ふわん、ふわんと不安定に空を闊歩している。


「…何て言うか……胃の辺りが気持ち悪いですね…」

つつじは自由な左手で自分の胃の辺りを擦りながら呟いた。

「キミは空を飛んでいるって言うのに最初の感想がそれなんだね…」

夢もロマンも無いなぁと青年は半ば呆れたように言っている。
そんな彼を横目につつじは盛大にため息を吐いた。

「あの…忘れてるかもしれませんが、私いまとんでもなく体調が悪いんで……」



ドォァンッッッッ!!!!!!!!



「………………」
「………………」

つつじと青年の間を目には見えない何かが凄まじい勢いですり抜けていった。

「へぇぇ〜、空気弾かぁ〜。なんかアニメとかで出てきそうだね〜面白いなぁ」
弾むような声を発する彼の方に目をやると、言葉とは裏腹に興味の無さそうな瞳をしていた。


「……意外ですね」


「何がかな?」


「…いや、何でも面白そうって訳じゃ無いんだな〜…って」


「……………………」


彼と目が合う。
私は彼に支えられて、見上げるような体勢にいる。
だから、よく見えてしまった。
彼の目が見開かれ、驚いている表情が。


ヘンな顔…。

この人に抗う自信が無いので、心の中で悪態をつく。


この数十分の中でのこの人の印象といえば、人のストーキングが趣味(本人は否定)の何でも好奇心で行動しそうな、もはや好奇心の塊である。

…だから、ちょっと疑問だったんだよね…。さっきの彼は言葉では面白いって言いつつも、この人の目には少しも好奇心が無かったことが。


「……………」
…そう感じたから疑問を口にしただけなんだけど…。
あれから数分、彼はいまだに驚いたまま私のことを見ている。
私を支えているにも関わらず、軽々と空気弾を避けながら。

「………あの……」
彼はまるで弾がどこに打たれるのか理解しているように前もって避けている。
しかし、顔は相変わらずフリーズしたままなので支えられている身としては非常に不安なのである。
そう考えた私はおずおずと声をかけた。

「………ふはっ…………くくくっ…っあっはははははっ、…ふふふっ……くはっ…あははっ!!」
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