本棚

□破れたメモと、後悔と
1ページ/7ページ



 ※この話は、全員生きてるという完全捏造のもとの話です。二人はネットロッジ所属。プラス、リカさん&大隅さんと同居です。


 ―――某月某日、土曜日のこと。
 瑞姫はリカに買い物を頼まれていた。
 常に〈食害〉により、記憶を食われている瑞姫にとって、何かを頼まれるということはかなり稀有で、
同時に信頼されている証として嬉しくもあり、傍目には見えないほどの嬉々とした表情で出掛けたのだ。
 瑞姫への贖罪のために生きているような勇路がその場にいたなら、絶対にありえないことだったが、幸か不幸か、彼はその場におらず、大隅と共に仕事に行っていた。
 そのため、消去法で瑞姫が買い物へ行くことになったのだが・・・
「いてっ、」
 目的を忘れぬよう、メモ帳を見ながら歩いていた瑞姫は、運悪く、ガラの悪い連中にぶつかってしまった。
「何だあ?このガキ」
「どこ見て歩いてるんですかー?え?」
 べたべたと、粘っこい口調の不快さに、瑞姫は思わず眉根を寄せた。
「・・・ごめんなさい」
 謝って、さっさと立ち去ろうとしたが、無論、そんなことで許してくれるような連中ではない。
 さらに絡んでくる男達。もしこの場に勇路がいたならば(二度目)、すぐさま殴り飛ばしかねないような絡み方だったが、残念ながら、瑞姫に彼のような腕力は無い。
(・・・・・・ゆーじ・・・)
 不安さが募る。
 もし、このまま彼の元へ帰れなかったら?
 地図は一応書いてもらっている。住所も。
 だけれど、少しの間傍にいなければ、もしかしたら彼のことを忘れてしまうかも知れない。
 唯一、自分を叱って、本当の意味で褒めてくれた、彼のことを。
 誰より大事な人のことを。
 ・・・今では、叱ってくれないけれど。
「ゆーじ・・・」
「あぁ?ユージ?誰それ?」
 ぽつりと零した言葉に反応して、身をかがめて尋ねる男達。瑞姫は一歩後退り、叫んでしまおうとした。
 口を開く。息を吸う。・・・恐怖と緊張で、声が出なくとも、少しは叫べるはずだ。
「―――ゆー・・・」
「お前ら何やってんだあ!!」
 瑞姫が叫ぼうとするのと同時に、怒声が降ってくる。と、目の前が白く染まった。
 それが煙幕だと分かるのに、数秒。
 手を引かれて走り出すまでには、1秒とかからなかった。
「逃げるぞ!」
 そんな頼もしい声に、ふと瑞姫は、馳尾勇路の姿を重ねた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ