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□一緒に
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―――目の前の状況が、把握出来なかった。
「おーっ、舞子!」
「さ、参ちゃん!?」
何で・・・・・・舞が見知らぬ奴に抱き上げられているのだろう??
事の始まり―――と言うか、あいつが現れたのは、下校時だった。
舞と話ながら学校から出てくると、校門のあたりに人混みが出来ているのに気付いて、そして耳ざとく、女子達の会話を聞いたこと。
『ねえねえ、見た見たっ!?』
『見た!すっごくカッコイイよね!』
『芸能人かなぁ』
『モデルさんじゃない!?』
女子達が色めき立っているのを見ると、恐らく男だろう。そして見目が良い。
「何か、すごい人混み出来てるねー。裏門から帰ろっか?」
「ん?・・・あぁ・・・」
と、そこまでは良かった。そこまでは。
しかし、問題はそこからだったのだ。そこ―――つまり、見知らぬ男が、舞を見つけて、駆け寄ってくるところまでは。
「おーっ、舞子!やっと出てきた!」
その声に、舞がぎょっとしたように目を丸くした。
ん?と思ってぼんやりとしていれば、人混みの中から青年―――確かにカッコよかった―――が飛び出てきて、瞬間的に、おれの横にいた舞を抱き上げたのだった。
「!?」
驚いたのは、きっとおれだけではない。その光景を目にした誰もがそうだろう。
何が起こってるんだ、とばかりに。
「そ、の、声・・・」
「何だぁ?分かんねえのか、舞子!?」
舞は、口を開けたまま、ぽかんとして、そして言った。
「さ、参ちゃん!?」
「ああ!ったく、毎日会ってるっつーのに、冷てぇなぁ、舞子よ!?」
「だ、だって!―――」
最後の部分は、ほんの囁き声といった風だったので、よく聞き取れなかった。に、しても・・・
毎日会ってる、って!?
クラスメイトなどの反応を見る限り、近所の人というわけでも無いのだろう。しかも舞には、弟しかいない。
―――どういう関係?
そんな声が、背後から聞こえた。知るか。
「参ちゃん、あの、降ろして!」
「ん?何でえ、舞子は高ぇとこが苦手かい!」
「そういうのと違うから!」
赤面して、ばたばたと暴れる舞。・・・つーか、マジでこの男、誰だよ?
「舞」
「えっ?いま誰呼んだ?―――藤原君?」
「ああ」
とりあえず、単刀直入に尋ねる事にした。
「―――誰?」
「え、誰、って・・・・・・」
そこで舞は、いささか迷ったようだった。何で迷う必要があるんだ?
しかし、その男の方が自己紹介をしてきやがった。
「おぉ、おれぁ、参佐っつうんもんだ!よろしくなぁ、秀行!」
「!」
何でおれの名前・・・て、舞から聞いたのか。―――と、思った矢先、
「さ、参ちゃん!?何で藤原君の名前知ってるの!?」
―――は?
何て言った、舞?
「どういうことだ?」
「お前ぇが前に喋ったんだろうよ!忘れちまったのか?」
「え?・・・え、ええと、そう、だった、かな?あはは・・・」
「そうそう!」
何かを誤魔化すように笑う舞と、豪快に頷く参佐とかいう奴。
―――と、そこへ。
「舞ちゃーんっ、」
クラスメイトで、舞と仲の良い女子が飛び出してきた。
「ねえねえっ、どういう関係なのよぉ!こんな素敵な人と♪」
「素敵ぃ!?どこが―――あいたっ」
「まったく失礼だなぁ、舞子!」
「いきなり抱き上げることの方がよっぽど失礼だし、常識を逸しているわ!」
確かにそうだ。
だけど、大して気にした風でもない参佐は、舞をさらに抱き寄せて、笑いながら言った。
「関係ねぇ―――恋人?」
「はあっ!?」
舞の甲高い叫び声は、他の女子達の「きゃーっ!」という声に掻き消された。
「だ、誰と、誰が!」
「おれと舞子に決まっとるだろーが!」
「冗っ談じゃないわよ――――――――!!!」
舞が怒鳴った。
「誰がっ・・・・・・だぁれが、自分より五十も六十も年上の人とお付き合いしなくちゃならないのっ!
冗談言うのも大概にしてよ――――!!」
「あぁ、怖い怖い。舞子の喉が裂けそうだ」
「参ちゃん・・・?」
「ほいよ、降ろすから」
「そっちじゃない!!」
弁解してよ、と嘆く舞に、おれ達他の児童はもう半分以上混乱状態だった。
「とりあえず帰っかぁ!」
「お気楽に問題だけを残して帰ろうとしないで!!」
そこで、校門を出ようとしていた参佐が、ぱっと止まった。
「え・・・?」
「悪ぃ、舞子!案内してくれ。道忘れた」
「馬鹿じゃないのぉぉぉぉおおお!?」
もうすっかり、おれ達は放置だ。
「じゃあどうやって来たの!」
「おばばに送ってもらったんだよ。
勇太のことでお前にいち早く伝えにゃならんことがあるから、学校終わったらそのまま連れてこいってよ」
「・・・・・・え?」
そこで、舞の顔色が変わった。
「勇太、の?」
「おー。何か、問題でもあるんじゃねぇのかい?」
「それを早く言って!!帰るよ、参ちゃん!
―――あっ、藤原君、ごめんね、今日ちょっとこの人のところ寄って行くから!また明日!!」
「あ、ああ・・・また明日」
条件反射で手を振った。二人は校門を出て、駆けて行く。
・・・・・・その後に、おれは何となく、二人の後を追った。
理由?―――当然、舞のことが気がかりだからだ。
あー・・・とんでもないことになったら、どうしよう。