本棚

□余談的なモノ(第七巻ver.)
1ページ/2ページ



 ―――帰りの車の中、一番最初に起きた(眠りが浅く、起きてしまった)黒木は、
 目の前の光景に一瞬驚き、声を立てないようにして笑った。
 互いの肩を枕にするようにして寝ている、小塚と彩。
 起きた時、二人がどんな反応を示すことやら。
 また、こちらの二人が起きた時、どんな反応を示すことやら。
 想像しただけで、おかしかった。
(―――でも、小塚、役得だな)
 少し羨ましい気もする、黒木。そしてハッとする。
(いや、別に俺は・・・この三人みたくアーヤに惚れてるわけじゃないし)
 ただ妹のような感じがして、かわいらしいと思うだけだ。そう言い聞かせる。
 そんなことを思っていると、上杉が起きる。
「どうかしたか・・・?―――え、」
 寝ぼけていた瞳が、目の前を映して一気に覚醒する様を、黒木は確かに見た。
「・・・・・・」
 奇妙な沈黙。・・・の、後。
「・・・・・・役得だな」
「ああ」
 ぽつりと呟かれた言葉は、先程黒木が思ったこととおなじで。
「若武先生が見たら、どうすっかねえ」
「さあね。案外何もしないかも」
「そりゃ無いだろ」
 二人の中では、若武は彩と小塚を引きはがすくらいのことはやる、と、最早前提のようになっていた。
「それより、二人が起きた時にどうなるかが問題じゃないかな?」
「あー、確かに・・・」
 ―――けれど、
「「普通かもな(ね)」」
 同時にそう言い、思わず笑いそうになった。
 全員一緒に起こすわけにもいかないから、こらえたけれど。
 でも、やはり隣にいた若武には、その違和感が伝わったようで。
「・・・んー、もう着いたのか?」
「お、お目覚めだ」
 ニッ、と笑う上杉。
 そして、若武がどんな反応をするかを観察するため、視線をそちらへやる。
「はあぁ、良く寝た・・・」
 一度のびをして、やっと目の前の状況に気付いた若武。
「・・・・・・」
 硬直して、その後目をしばたたかせると、
 おもむろにカバンの中から携帯電話を取りだし、憮然としてぱしゃりと一枚写真を撮った。
「「・・・っ、ははっ!」」
 さすがにこれは予想していなかった、と、二人は思わず笑った。こらえるのも、間に合わなかった。
 しかし、二人はよほどよく眠っているのか、起きる気配が無い。
 黒木と上杉は、ひょいと若武の撮った写真を見て、「後でオレにもくれよ」と言った。
「ああ、いいぜ」
 後で、と言うのは、きっと、帰国後だろう。
 少しの間があり、
「―――何かさ、」
と、若武が言った。
「「?」」
 若武は、眠っている二人を顎で示すと、
「この二人だとさ・・・・・・羨ましいとか通り越して、ほのぼのしてる気がすんだよな」
「「・・・・・・」」
二人は沈黙。その後、
「「―――確かに」」
 ハモってそう言って、また笑った。
 ―――車内には、まだ笑いの余韻が残っている。


 数分後、起きた二人が、「ごめんね」「ううん、いいよ」なんていう、普通なやりとりをするのは、とても面白かったらしい。


→NEXT あとがき
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ