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□トロイメライ
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 クロム・マグナ魔道学園を卒業してから五年後―――
 イツキは永年中立区に建てられた母校に、用事のついでに立ち寄っていた。
「懐かしいな・・・」
 荘厳にそびえ立つ校舎を見ると、学生だった頃の騒がしくあたたかな日常が次々と思い起こされる。
 校門前でしばらく感傷にふけっていると、不意に背後から足音が聞こえて、
慌てて「すみません」と右に避ける。
「あ、いえ、大丈夫です」
 そう言った女性の声に、はっとする。
 懐かしさのあまり勢いよく振り返ったイツキの目に、きょとんとした表情の女性が映る。
 薄紅色のくせ毛。
 橙色に輝く瞳。
 手首につけたシュシュ。
 ―――変わらない、けれど確かに大人のものになっていた姿に、イツキは一瞬戸惑った後、問うた。
「ニコラ、か?」
「イツキ君・・・?」
 目をしばたたかせてそう呟いた女性・・・ニコラに、
イツキは思わず笑顔になって、先程避けた距離をすぐに縮めた。
「ニコラ?ほんとにニコラなのか?・・・久しぶりだな!」
「う、うん、久しぶり、イツキ君」
 思わぬ再会に戸惑うニコラは、しかしすぐに微笑んで尋ねた。
「イツキ君も、学園に用事があったの?」
「いや、オレは学園じゃなくて近くに用事があって。ニコラは?」
「アタシはユキヤ君に用事。上の人達から連絡取るように言われちゃって」
 雑用もいいところ、とため息をつくニコラ。
 イツキはそういえば、と思い出した。
「ユキヤとニコラって・・・」
「同じ国出身だよ。
 ・・・あれ、そういえばイツキ君って、ユキヤ君が今学園の教員やってることも知らないんだっけ」
「そうだったのか!?あのユキヤが・・・」
 なんだか感慨深くなる。
 そんなイツキと時計を見比べて、ニコラは中入ろ、と促したのだった。
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