短編
□浮気の理由。
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「赤司っち ? なんか用ッスか ? 」
赤司によって体育館裏に呼び出された黄瀬は、自分よりも背の低い赤司と壁に前後を挟まれ、身動きが取れなくなっていた。
「ちょっと……聞きたいことがあるんだが……」
「へ、は、はぁ……」
(バレ……てる ? )
黄瀬は背中に冷や汗をかいた。実は昨日、前々から言い寄ってきていた女と寝た黄瀬は、その事が赤司にバレるのを何よりも恐れていた。
(てか、バレないわけないっスよね…赤司っち相手に)
「いいかな…… ? 」
「それ、俺に拒否権ないッスよね ? 」
「そうだね、僕の言うことは絶対だ」
クスリと赤司は笑った。
「……なんスか」
「昨日の女だが……いったいどこのどいつだ ? 」
急に険しくなった表情に、黄瀬は息をのむ。それでも黄瀬は出来る限りの動揺を隠し、強気な姿勢は崩さない。
「だいぶストレートに聞いてくるんスね」
「当たり前だろう ? 」
ジリジリと近寄ってくる赤司に、黄瀬の頬には汗が伝う。
「で、相手は誰なんだ。言ってみろ涼太」
「……」
黄瀬は何も言わずにただ、赤司から目を反らした。
「あくまでも黙秘するつもりか」
「……赤司っちには関係ないッス」
「関係ない…… ? 」
その言葉にピクリと反応した赤司。
「随分とものをいうようになったじゃないか」
「だって赤司っち……俺の事なんてどうも
思ってないッスよね ? 」
顔をあげた黄瀬の頬に汗ではない雫が零れているのを見て目を大きく見開いた。
「俺なんていなくてもいいんでしょう ? 」
自分を嘲笑うかのように、黄瀬は苦笑いをする。
(──そう、俺なんて)
「……何をいっているんだ、お前は」
「だから、俺なんてッ !! 」
それ以上が言葉になることはなく、ついに黄瀬は泣き出した。
「……それでお前は僕の事をどう思っているんだ」
「緑間っちのコトが好きなんスよね ?
俺は…俺は代わりなんスよね ? 俺なんて……」
「ッ…… !? 」
「いっつも二人でいるじゃないスか !! 」
「涼太」
「……触んないで下さいッス」
「いいか、よく聞け涼太」
「触んなっ……あ、」
パシッ、と手を払われ、赤司は愕然とした。
「ッ !! 」
耐えきれなくなった黄瀬は、自分を呼ぶ赤司に振り向くことなくその場を走り去る。しかし、その横顔の悲しそうな表情を赤司が見落さなかった。