《本編》ショートカットとジレベスト

□ヒトツ
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「ねぇマヒナ、来月合コンが有るんだけどアンタも来ない?」

「…へ?」
清んだ空が気持ち良い昼下がりの午後、公園で互いに持参した弁当をつついて居ると同僚のケイコが言った。


唇に箸を当てたまま呆けた声を出した橘マヒナは、眉をひそめて
「だから私…そういうのは・・・」
と、今度は弱気な声を絞り出す。


「だよね〜…マヒナってば、全然男に興味無いもんね。
でもさぁ、本当に人数が足らないんだ………それに今、彼氏も好きな人も居ないんでしょ?」

「それは…そうだけど・・・。」
言い返せなくて、意味なく視線がお弁当に落ちる。

「それにその先輩、マヒナみたいな“ショートで可愛い子がいい”って言うんだもん。」


「フフッ…ありがとうケイコ。でも、誉めても無理なモノは無理だよ?」

まだ寒い春先の風が、短くカットされた髪から覗くマヒナの白いうなじをそっと撫でる。

不毛だからいちいち否定はしないものの…自分が特別美人でもないと自覚しているし、手入れが楽だという理由だけで長年続けているショートを求められるのも、イマイチピンとこない。


「大学時代の凄くお世話になった先輩で断れなくてさぁ………ってか、合コンが苦手なら、その人と個人的に会う?」

「ま、ますます無理だよ…!!」

合コンの雰囲気が苦手だというのも有るが、何よりマヒナ自身異性との付き合いに積極的になれなかった。

「背も高いし、凄く格好いいよ?」


「…」

何でと聞かれると答えられない…けれど、仕事と趣味でそこそこ忙しく、友達と家族がその隙間を埋めてくれる今の状態で十分幸せなのだ。







「それに私…背が高かったり筋肉がついてたり、“男らしい人”の方が、苦手な気がする。」

他人事の様に言い放ちデザートの苺を食べ始めると、ケイコは感心した様に「へぇ〜珍しい…」と言いつつも、どこか納得した様だ。
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