*Osomatu*

□花散る季節に恋をして
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四月中旬、桜の見頃も過ぎた頃。
テレビでは花見に行き損ねた人向けの遅咲き桜特番だなんだと、未だに浮ついた空気のまま。
だけど、365日常に暇人な俺ら六つ子が花見に行きそびれるはずもなく。
桜が散る前にと、先週近所の公園の桜の横で、昼間から食べて飲んで騒いだ。
思えば桜をあまりじっくり見なかったような気もするけれど、花見なんてのは要はそんな気分になれれば良いのだから問題ない。
そんなことを三男に言ったら、きっとあの自称常識人は花見の本質なるものをそれっぽく熱弁して下さるんだろうな、なんて下らないことを考えながら当の本人を待つ。

チョロ松と兄弟や相棒以上の関係になってすこし経った数年前からだったろうか。
花見の季節が過ぎて、葉桜になるような今ぐらいの時期に、二人だけでこっそり花見もどきをするようになったのは。

「お待たせ、兄さん」

「ん、じゃあ行くか」

兄弟がついてこないように、表向きは別々の予定で別々に家を出て、少し離れた場所で合流する。
それから公園に行って、もう花の桃色なんて地面ぐらいにしか見当たらないような木々の下で、ちょっといちゃついた空気でお酌。

「んじゃ、かんぱ〜いっ!」

「ん」

なんかむず痒くて面白くて、顔見合わせてちょっとくすくす笑う。
コンビニで買ったいつもの安いビールに、適当に買った酒の肴をつまみながら何の変哲もない話。
それでも、こいつが普段の棘と自意識を家に置いてきたかのように素直なだけでなんか幸せ。
付き合いたての頃のらぶらぶ感っていうの?あんな感じがして、愛おしいな、って思う。
心があったかくなる。

「そういやさ、兄さん」

「んー?」

「気付いたらこれやるようになってたけど、そもそも何でやるようになったんだっけ?僕らって、なんか理由ないと続かない質じゃん。何年もやってるし、絶対なんかあったよなって」

「あー、理由ねぇ…何だったっけねー…」

葉桜の時期に、花見もどきをやる理由。
ちょっと目閉じて思い出してみる。
確か、付き合いだして少し経った頃に喧嘩したんだよな、俺ら。
そんでぎすぎすしちゃって、その空気がずるずる続いちゃって。
チョロ松と仲直りしたくて、でも自分の中でぐだぐだ言い訳して、今ぐらいの時期になって、じゃあチョロ松のこと好きになったばっかの頃の気持ちに返ろうって思いついて…。
…あ、そっか。
そうじゃん、そうだったわ。

「…お前を何回だって好きになるため、だよ」

「……えっ?」

ぽかん、とした後にかぁぁっと赤くなるチョロ松。
あー、可愛い。
普段ならむず痒くて言えないような言葉も、今なら言える。

葉桜の時期。
それは、枯れた色ばっかの冬が終わって、華やかすぎる春も終わりに近づいて、鮮やかな緑の夏が来ようとしている時期。
幼い頃からずっとそばにいたこいつの色でいっぱいになっていく時期。
ーーそして、緑を見る度にふとチョロ松を想ってしまっていることに気付いた時期。
好きだ、って声に出してみたら、すとん、と落ちるみたいにその二文字は俺の心にぴったり収まった。
ああそっか、好きなんだ、って思ったら、もっとぐっと好きになった。

「俺、お前のこと好きになったの今ぐらいの時期なのね。だから、好きだって気付くきっかけくれた葉桜見ながらお前といちゃいちゃすることで、好きだって思う時の気持ちをちゃんと思い出したくて始めたんだよ」

「…えっ……あ、そう…だったんだ…」

「真っ赤になっちゃって…かぁいいなこの野郎っ」

「う〜っ…だって、そんな真面目な理由だなんて思わなくて…っ」

押し寄せてくる愛しさに思わず抱き寄せれば、耳まで真っ赤になって肩に顔を埋めてくる。
ほら、また好きだって思う。
好きじゃなかったら、こんなに可愛いだなんて思わない。

「…愛してるよ、チョロ松」

今も昔も、これから先も、来世でも。
花が散って、自然がお前の色になるこの時期に、きっと俺はお前にしか恋しないと思うんだ。

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