*Original*

□君の亜酸化窒素
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「憧憬」という単語を国語辞典で調べていたら、見慣れないものを見つけた。

笑気【しょうき】吸えば笑いが出る気体。亜酸化窒素。

…亜酸化窒素?何だそれ。
なんだかバラエティ番組やお笑い番組で重宝されてそうな気体だ。
というか、今何故か爆笑したい私に誰か持ってきてくれたりしないだろうか。
いや、突然頼んでもいない宅配便が届いたら恐怖しかないけれども。
なんて、勉強中なのにぐだぐだどうでもいいことを考える。

「…君の亜酸化窒素は、誰なのかなぁ…」

ぼそり、無意識に零れた言葉。
自分が呟いたと気付くまでに2秒、何を呟いたか思い出すまでに1秒、意味を理解するまでに3秒。6秒の間を置いて、かぁぁっと顔が赤くなる。
…何呟いてんだ私ーっ?!
あああ馬鹿か?!
馬鹿なのか?!
そうだ馬鹿だったね!!
そろそろ馬と鹿がゲシュタルト崩壊しそうだ!!
心の中でひとしきり叫んで、辞書を開いたままの机にばさっと勢いよく伏せる。
恥ずかしい。
恥ずかしすぎる。
いつの間にこんな惚気たことを考えるような頭になってしまったのか。

勉強に戻るべく、顔を上げて頬をぺしぺし叩き、頭をふるふる振って思考を切り替える。
気分転換にカーテンを少し開いた隙間から見えた夜空に、輝く三日月。

「月が綺麗ね…」

無意識に呟いたことに気付かないまま、脳裏を過るのは愛しい君の笑顔。
こうして、勉強が苦手な者同士助け合おうね、なんて名目で君の為にせっせとノートを纏めたりするのは、君の亜酸化窒素になりたいからなのかな、なんてシャーペンを走らせながら思う。

きっといつの時代も、恋する乙女は一途で健気。


→あとがき
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