*Osomatu*
□幻像の冷気よりも
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ブランチというには遅すぎた昼食を食べ終え、2階に戻ってだらだらと就活情報誌を読む。
カラ松はいつものイタい散歩、一松は猫の餌やり、十四松は野球で、トド松は買い物。
今日は珍しく兄さんがパチンコに行かなかった。
つまりは二人きり。
僕が僕らしくないせいか、どことなく気まずい空気。
それを就活情報誌を読むことで誤魔化したつもり、だった。
しかしそんなものなど通用しない、それが我らが長男様であって。
「…ねぇねぇチョロ松ぅ〜、お兄ちゃん暇だからさぁ、構って〜?」
「…今忙しいから無理」
「えっどこが?!お前今就活情報誌眺めてるだけだよね!!」
「…耳元で叫ぶな騒がしい」
「ったくも〜、チョロちゃんたら氷河期〜?お兄ちゃん寂しいよ〜?」
変化を悟られないように、就活情報誌に目を落としたままいつものようなやり取り。
兄さんは不貞腐れたように頬を膨らませた。
成人男性がそんなことして可愛い訳がないのに、本当幼い兄だ。
もうしばらくは構ってこないだろうと、時折ページを捲りつつ雑誌を眺める。
「…ねぇ、チョロ松」
さっきのふざけた雰囲気は何処へ行ったのか。
真剣さを纏った低い声に思わず顔を上げれば、何かを探るような鋭い視線に射竦められて、思考が出来なくなる。
「…ッ、ぁ…」
「…お前、なんか嫌なことあったっしょ?今日のチョロ松、なんつーか…苦しそうだもん」
「……」
何故、うちの長男はこういう時ばかり鋭いのか。
何も言えなくなって俯くと、顎をくいっと持ち上げられて無理矢理前を向かされる。
「ちゃんと俺のこと見てよ。なぁ、どうなの?」
「……嫌な夢見ちゃっただけ、だよ」
「それだけ?じゃないよな、お前その程度だったら大抵甘えてきてくれるだろ?」
「………」
また黙り込む僕の頬を、兄さんの手が優しく撫でた。
ちらりと兄さんを見ると、先程の真面目な表情とはうって変わって、心配そうな慈しむような微笑み。
優しい兄さんの表情と、夢で見た冷たい兄さんの表情が重なって、胸がきゅっと苦しくなる。
「…えっ、ちょっ?!まじで何があったのチョロ松!!」
兄さんが突然慌てた声を出して、初めて自分が泣いていることに気付く。
気付いてしまったら、必死で抑え込んでいた気持ちまで一緒に溢れ出した。