夢恋人 石神秀樹

□科捜研のオンナ
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あぁ、甘酸っぱくて見てらんないわ。  


初々しくって、若くて、可愛くて、素直で、正直で。


おんなじ女なのにねぇ。


カウンターのスツールに深く腰掛けて組んでいた脚を組み替えた。


買ったばかりの赤いピンヒール。

深めのスリットに、後方テーブル席からの視線が集まるのはいつものこと。


でも、だーれも声をかけては来ない。

ふん、これもいつものことだけどね。


アタシって、そんなに怖い?

こーんなにいい女なのにねぇ。

もったいないって思わない?

チャレンジ精神にあふれた、骨のある男は一体どこにいるのかしらねぇ?


アタシはくいっとブラックルシアンを飲み干した。




嘘。

見てらんない、なんて嘘。

思いっきり彼女の方に椅子を回して、頬杖をついて、
彼女と、その向こうに座る彼を視界に入れた。

二人は静かに話を続けている。



今日までの自分に後悔はないけど、年齢はさておき、こうも違うってことは、

やっぱりどっか足りなかったのかとか、

それとも逆に色々持ちすぎていたりするのかとか、そんなこと考えちゃうじゃない。


言っとくけど、未練なんて全〜然ないのよ?

でもね、私の目の前で、あの秀っちがよ?

しら〜っとした顔で、おまけに彼女へのさりげない気遣い心配りっつーの?

こーゆー場所に慣れてない彼女のために、あんまり度数の高くないロングドリンクをオーダーしててあげたりなんかしてねぇーーー


ほぉーんとに彼女が可愛いくて仕方ないのねぇ〜〜。


言っとくけど、未練はないのよ?

だから、これは嫉妬でもなんでもないんだからね?


ただ・・・なかったことにされたくない、というか。




・・・・ん〜〜〜。

でも、まぁ・・・いっか。


あの秀っちが、彼女ですよ?

しかも、相当本気の。

これは快挙よ、快挙。




・・・ふうぅ〜〜ん、あんなに優しい目が出来るんだぁ。 


おぉ、笑ってるよ。


なかなか人間っぽく成長したじゃんwww


な〜んて微笑ましいことかしら。




今までの秀っちを知っているだけに、今日の彼の様子を見るだけで
彼女にどれだけ気を許しているのかが、悔しいくらいに判っちゃうのよね。

座る位置や手や脚の動き、彼女と話すときの仕草とか。 



あーーーー!

やっぱり甘酸っぱいわぁ。
やっぱり見てらんないわぁ。


ふふ、と声に出さずに笑って、アタシはスツールから降りる。

彼女という存在を得て、秀っちがまたどんな風に変わって行くのか、本当に楽しみだわ。


じゃ、頑張んなさいよぉ。

ホントに応援してんだから。


私は髪を書き上げると、ヒールの音も軽やかに先に店を出た。


・・・ちっ、今日も誰も声をかけて来やしないし。



自宅に戻ってシャワーの後、髪をタオルドライしながらウォッカトニックを作る。

スミノフをシュウェップスで割るのが私のお気に入り。

ん、ライムは最後の一個だったわ。
明日買って来なきゃ。

スミノフが半量のウォッカトニックに、カットした大き目のライムをギュッと絞り入れると、ステアもそこそこに一気に半分を喉に流し込む。



はあぁ〜〜〜〜・・・



・・・・秀っちは、一体、どんな風に彼女を抱くんだろ・・・・・




あの、青いリンゴみたいな彼女を、ちゃんとリードできるのかしらねぇ・・・


まっ、余計なお世話だけど。




あの、いつも冷静で端整な顔立ちが、官能に歪むのを見るのが、アタシはたまらなく好きだった。


追い詰めて、追い詰めて、あの酷薄そうな唇から、甘い吐息が洩れるのを聞くのも、大好きだった。


なし崩しに始まった、カラダだけの関係。


いつも仕掛けるのはアタシで。


半ば無理矢理奪った合鍵で、部屋に入りびたり、秀っちが帰るなりアタシはカラダをぶつける。

立ったまま、キスを仕掛けながら彼を裸に剥く。

「・・・好きにしろ・・・」

いつも諦めたように言う彼。  


だから、好きにした。


止められても、「好きにしていい」って言ったでしょ、と言いながら。



秀っちのカラダの、どこをどんなふうにしたら、あの顔を見ることができるのか。

あの声を聞くことができるのか。


アタシは良〜く知ってる。



アタシの指の間で。

アタシの口の中で。

アタシのカラダの奥で。


散々に劣情を煽って、寸前まで追い詰めては動きを止める、を繰り返す。


細身ながらしっかり鍛えられてしなやかな肢体が、アタシの目の前で跳ねる。


眉根を寄せて背中をしならせ、声を上げるまで。


彼が自らの両手で顔を覆い、そのまま髪を乱暴にかき乱すまで。


そうなると、もうアタシのの勝ちだった。


本能に飲み込まれた彼が、アタシを組み敷いて激しく揺らすに任せるだけ。


最後の瞬間を迎えた後、アタシのカラダの上で、

肩で息を整える秀っちの、可愛いことったら、もう・・・・・




・・・いやん、濡れて来ちゃったじゃない。


残りのウォッカトニックを喉に流し込む。


カラダを繋げてれば、心もいつか繋がるかも、なんて思っていた日々。 


行為さえ終わってしまえば、まるで何事もなかったかのように振る舞える彼が憎らしかったっけ。


次は何か変わるかも知れないと思って、ズルズルとそんな関係を続けていたけど。

辛くなって来たのはやっぱりアタシの方で。


秀っちは、決して自分からは、キスはおろか、アタシに触れてさえ来なかった。

いつもアタシが彼の手を導いてただけ。


受け入れてはくれるけど、ただそれだけ。


それに気付いていたくせに、気付かないふりをしていた。


本意ではないのに、私を拒絶しなかった彼。

その優しさにどっぷり甘えてたのは、アタシ。




合鍵をデスクに置くと、秀っちは、パソコンに向かったまま、チラリと私の顔を伺って 

「・・・・そうか」と一言。

アタシも、「ありがと」とだけ言って、部屋を出た。

卒業の日みたいに、なんか清々しい気持ちになっちゃったっけ。


それからも秀っちは、仕事でどれほど顔を合わせようとも、二人っきりになろうとも、

あの日々のことを口にしなかった。

チラリとさえ、態度にも出さなかった。


全く、どんだけサイボーグなんだっつーのよ。



それがねーーーーーー。

やーー、今夜はいいもの見せてもらったわ。

うふふ。

良かったね、秀っち。

アタシは嬉しい。 


秀っちが幸せそうに笑ってるのを見られて。



・・・・さーて、寝るかな!
 

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