【 G N T M 】

□金魚鉢
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歌舞伎町夏祭り!!
そう記された、でかでかとした看板の下をくぐり抜けると、祭り特有の匂いに包まれた。
 
夏祭りなんてもんは好きじゃない。
楽しいもんだとは思うわけだ、ただし金があれば。
万年金欠のやつからしてみれば夏祭りの屋台たちは、何というボッタくり店なんだと思う。
あんなインチキ焼きそばが五百円もするなんて有り得ない。ただ、自分で買ったら美味いと感じるから買う余裕がない自分が情けないと感じるのも事実だ。

「銀ちゃん銀ちゃんわたあめ食べたいアル!!」
「銀さん!たこ焼きありますよたこ焼き!」

そんな自分とは裏腹に無邪気にはしゃぐ子供達を見てると、ばばあから軍資金を貰えなかったら今頃は家でまた粗末な……と、また自分が情けなくなり、それと同時にばばあに感謝した。

「おー、好きなの食えよ」

テキトーに金だけ渡すと、この祭りは大して大きなものではないから好きに回るように、と二人に言い聞かせた。

「じゃあ、回ったら九時には時計台に集合な。花火開始時刻だから。」
「わかったアル!!」
「分かりました!神楽ちゃん行こう」

一人残った自分は、きっとこんな小さな祭りにも駆り出されているだろうアイツを探してみる事にした。

提灯に照らされた会場内。
暗くなってきたし、あの真っ黒い連中なんて見つけられねーか…と諦めようとしたら聞き覚えのある声が…

「親父、それ、そいつと変えてくれねぇか?」
「いやぁ、困りますね旦那ァ」
「どうしてもダメか??」
「え、いや……どうしてもってこたァねえけど……いやぁ、それにしても旦那えらい別嬪さんだねェ!!同じ男とはおもえな……」
「おい、おっさん」
「え」
「こいつに触ろうとしてんじゃねぇよコノヤロー」
「え、えっと…旦那にこれ…」
「あ?あぁ、変えてくれんのか??」
「無視ですかコノヤロー」
「さんきゅ、親父」
「え、まじで無視??」

その場を去る彼の事をじーっと見つめる屋台のおっさんをひと睨みしてから、彼の後を追う。

「待てよ」
「……」
「待てってば土方!!」

名前を呼べば素直に立ち止まりこちらを振り向く土方。よく見ればその姿はいつもの真っ黒い姿ではなく、控えめに柄の入った浴衣姿で思わず凝視してしまった。

「…なんだよ」
「いや、なんだよって…お前仕事は?それに何されそうになってんだよ」
「仕事は終わった。あとあれは…セクハラ??」

そう言い放つと土方は綺麗に笑って魅せた。

「…………っ…」
「どした?」
「……………あぁもうお前は危険」
「は?何が…っておい」

あまりにも綺麗な笑顔を見せる土方に危険信号を感じた俺は、咄嗟に土方の腕を掴むと土方を連れて人混みを抜け出すと、隅のベンチに腰掛けた。

「笑い事じゃねェっての…少なくとも俺には……」
「ふーん?そーかよ」

いつも仏頂面ばかりのくせにこういう時に限って機嫌がいいもんだから、こっちからしたら調子が狂う。

「で、さっき何してたんだよ?」
「んー?あぁ…これ」

そう言って土方が差し出したのは水の入った袋。よく見ると中には金魚が一匹入っていた。

「金魚……?」
「なんでまた?とか思ったか?」
「いや、思うだろ」
「こいつさ、似てるんだぜ」
「似てる?なにに?」
「なんだと思う?」

そう言うと土方は悪戯っこのように笑った。ホントにこれが本人無自覚だから敵わない。

「分かりませぇーん、教えて下さい」
「ホントにわかんねぇのかよ」
「んん??」
「ホラ、ここ見てみろよ」

そう言って土方が指さした所を見る。
そこは丁度金魚のヒレの部分で、よく見ると波模様のようにも見えた。

「……あっ」
「分かったか??」

そういうと土方は金魚が入った袋を俺の着物の波模様の所に重ねた。

「…まぁ、分かった」
「まぁって何だ…でもあれだな。実際見比べるとそんなにでもねぇな。」

確かに、波模様というだけで別に特別似ているとは思えなかった。
じゃあ何故土方は似てると思い込んだのか??

その意味を考えると、少しだけ嬉しくなって顔が緩んだ。

「何笑ってやがる、」
「いやー、銀さん愛されてるなと思いまして。」
「己惚れんなクソ天パ」
「あ、いい雰囲気ぶち壊しじゃん」
「あぁ?いつも通りだろうが」

それから暫く見つめ合うと、どちらからともなくキスをした。唇同士が触れ合うだけのキスだったし土方も別に外だから、と拒まなかったし、今日は存外ホントに機嫌がいいようだ。

「そんで?それ、どーすんの」
「コイツか?飼う、だろ。」
「飼うんだったらあれ、金魚鉢いるんじゃねえか?」
「あー、売ってねぇかな」
「あるかもしんねぇよ。見に行くか」
「…ん」

そうして二人同時に立ち上がると、祭りの提灯明かりに向かって歩き出す。
その手は繋がれていたけれど、土方はそれも振り解こうとはしなかった。

「あれだな、餌とかもいるかな」
「いるだろ。でもあんま食わせねーようにしなきゃな…てめーみてぇになったら嫌だし。」
「え、土方くんそれどう言う意味?」
「まんまだろ?」
「え、もしかして銀さん太った?!太ってる??」
「さーな。」
「さーなってなに!!うわー銀さんショックだな…泣けそう。」

さぁ、これから波模様のヒレを持つ金魚に似合う金魚鉢を見つけたら、子供達の待つ時計台に彼も連れていこう。きっと子供達も喜んで彼を引き入れるから。

並んで歩く二人の間で波模様が愉しそうにゆらゆら揺れた。


end.
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