【 H Q ! ! 】

□予約
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「・・・遅かったっすね」
「ご・・・ごめん飛雄ちゃん」



今から一時間くらい前になるだろうか



「やっほ〜飛雄ちゃん今から会える?」
「あー、大丈夫っす」
「じゃあいつもんとこに今から三十分後ね」
「今からっすか?」
「うん、今からねじゃあ」
「え、ちょ及川さっ」

部活も終わっているであろう飛雄を及川は半ば強引に近くのファミレスに呼び出した。
こちらも部活終わりですぐに行こうと思っていたのだが、待ち伏せていた他校の女子に捕まったのが運のツキ。

女の子の頼みが断れないタチの及川はうっかりそこで時間を食ってしまった



そして今に至る。



「・・・・・・」
「と、飛雄ちゃん怒ってる?」
「・・・そーすね、怒ってます」
「いや、ホントごめんね」
「・・・・・・・・・どーせ」
「え?」
「どーせ、女子に捕まってたんだろあんたは、だったら仕方ないだろ」
「そっ、そーなんだよ!なんだ飛雄ちゃん分かってるじゃん!仕方ないよねー及川さんモテるからっ」
「・・・・・・」
「あれ?飛雄ちゃんなんも頼んでないの?」
「・・・・・・」
「おーい、飛雄ちゃん?無視は良くないよ」
「・・・・・・」
「あれ・・・飛雄ちゃんどした?」
「・・・・・・んたが」
「え?」
「・・・あんたが呼んだんだろ。会えるか?って・・・なのに」
「・・・飛雄ちゃ」
「・・・のになんで、反省一つしねーわ、謝らねぇわ、大体俺に会いに来るつもりならなんで女子なんかに捕まったままでいるんだ・・・少しは俺の気持ちってもんも考え・・・あ、い、今のすんませ・・・な、無しで・・・・・・って何笑ってんだあんた!!?」

悪いのは及川の方。
それは分かってる、分かっていても及川は込み上げてくる笑いを止められなかった。

「ご、ごめ・・・ぶっは・・・っつ・・・」
「・・・・・・っつ――――帰る!!」
「あぁ!待って待って!!話し聞いてほんとに」
「嫌ですほんとに、帰ります」
「分かった!奢るよ奢るから!」
「おご・・・・・・」
「なんでも頼んでいいから、ね?」
「・・・・・・・・・少しだけなら・・・」

多分、飛雄は奢るという言葉に惹かれたんだろうけど及川にとっては呼び止める理由ならなんでも良かった。
大事な話があって呼び出したのは事実だったからだ。

「おぉ、すっごい頼んだね・・・」

目の前にどんどん運ばれてくる料理

「・・・で、なんすか話って」
「・・・全部食べれるの?」
「・・・食えます?及川さんも食っていいっすよ」
「いや、食ってもいいって、その及川さんが奢るんだから」
「?・・・まぁいいすけど、話って?」
「あぁ・・・飛雄ちゃんさ、この間告白されたらしいね」
「ブッ・・・・・・な、お、な・・・なんで及川さんがそ、それ知って・・・!?」

及川は実はラ〇ンのIDを交換していた日向がホームに「影山告白されたらしい!!」と個人情報だだもれの投稿をしていたのを見て、日向に問い詰めたのだった。

「まぁ、何だっていいじゃん。それでさ・・・・・・飛雄はなんて答えたの?」
「え・・・あ、俺・・・俺は」
「その場で答えらんなかったんでしょ??」
「なっ・・・・・・!?」

飛雄の様子を見る限り図星のようだった。

「なんで答えなかったの??」
「え、いや・・・だって・・・・・・その、ど、どう答えればいいのか・・・」
「・・・どう、ねぇ」

飛雄は段々と声のトーンが下がっていく及川さんの顔を見ることが出来なくて顔をそむけた。自分が何をしたんだと思いながら。

「だ、だって・・・」
「飛雄ちゃん、その子にさ返事求められたらこういいなよ。」
「・・・?」


「俺の隣は予約入ってるんで、って」


「よ、予約?」
「そ、予約」
「・・・予約ってなんすか・・・??」
「まー、うーん飛雄にも分かるように説明しようとするとねぇ」
「はい」

すると及川は腰をあげて前のめりになり、目の前の飛雄の方に寄りメニューで顔を隠した。

「こゆことかな」
「ち、ちょ・・・及川さ・・・んんっ」

座っている場所が隅だったから良かったもののバレたらどうするつもりだと言いたくなる大胆なキスだった。

「・・・・・・ふっ」
「っふ・・・――――っにしてんだよこんなとこで!!?」
「だからー、飛雄は俺のもんだろ」
「・・・・・・そ、れは」
「・・・早く」
「・・・及川さん・・・・・・?」
「早く断りなよ・・・」
「!!」
「俺は嫌だよ飛雄ちゃんが離れんのは」

飛雄は及川のこんなに不安そうな顔を初めて見た。今まで過ごしてきた時間は長く、色んな表情を見てきたが、弱気な表情は初めての気がした。それにきっと他の誰にも見せたことがない表情なんだろうと悟った。

「・・・・・・」
「・・・なんとか言ってよ」
「・・・及川さん、俺・・・俺は」
「・・・」
「俺は離れません。それに、及川さん以外ありません」
「・・・!!」
「だから、あの・・・俺にもさせて下さい」
「な、にを・・・」
「お、俺も・・・・・・及川さんの隣・・・予約、したいです」

及川は、飛雄にこの気持ちを伝えたいから呼び出したのだが、及川にとっては思わぬ収穫だった。まさか飛雄の口からそんな言葉が聞けるとは思ってなかったからだ。

「・・・っはぁ・・・・・・ずるいよねぇ」
「何がですか?」
「ずるいよ、飛雄は」
「・・・?」

及川は脱力したように、机に顔を伏せた。そして嬉し涙を堪えるのに必死だった。

ボソッ
「・・・・・・及川さんを泣かせるとはね」
「?なにか言いましたか」
「イーや、別に。それより飛雄ちゃん今日金曜日だし家泊まりなよ」
「いや、でも土曜も練習ありますし」
「ダメ、明日は1日一緒にいること!先輩命令!!」
「・・・そーゆーの横暴っていうんですよ」
「飛雄ちゃんそんな言葉知ってたの」
「し、知ってますよそんくらい」
「とりあえず家帰ろう。飛雄ちゃん俺ね、」
「結局強引かよ・・・何すか?」
「今すぐ飛雄ちゃんに触りたくてたまんない」
「っ・・・」

真っ直ぐ目を見ながらそう言うと、すっかり赤面した飛雄を見て及川は勝ちを確信した。今日は確実にアレすることができるな、と。

「ほらほらっ、立って!帰るよ!」
「・・・くそっ、分かりました分かりましたよ!!」

この時及川はご機嫌で忘れていた。
ここの飯代は奢ることになっていたことを。



end.
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