不器用な彼女と器用な彼
□1話
1ページ/11ページ
全ての配線は接続を終えている。
後は最後のスイッチを入れるだけで終わる。
いつ、どんな時でも、この瞬間だけは緊張をする。
「果たして成功か、失敗か」
答えはどちらかしか無い。
思い出すのはあの日の光景。
最後の希望が砕かれた日。
それは皮肉にも地球が救われた日。
「アマハラ博士、どうかしましたか?」
特殊ガラス越しにこちらの様子を伺っていた政府の高官達が声をかけてくる。
その声にカナエ・アマハラは問題ないと言うかのように首を左右に振ると、自身の目の前にある金属の塊を見つめる。
人の形をしたソレが活動を停止してから、それなりの時間が経過している。
「お前も散々だね。お前の仲間はお前を気遣ってお前を修復したというのに・・・」
結果、このような実験台として使われる事となるのだから。
真っ二つに分かれたまま、壊れたままであれば目をつけられることも無かったのだ。
「お前も私もね」
だがきっとあの生命体達は願ったのだろう。
最期こそ綺麗なままでと、誇り高い戦士のままで、と。
それはカナエと同じだ。
最期まで願い続けようと、諦めずに挑み続けよう、と。
「お待たせしました。今からスイッチを入れますので、皆様は何が起ろうとも決してその部屋から出てこないで下さい。」
例え私が殺されようとも。
そう呟いたカナエは唇を歪めて笑う。
彼らは助けに来るわけなど無いのだ。
己の身だけが最優先なのだから。
ゆっくりと瞬きをしたカナエは手元のスイッチを押す。
モーターの回転する音、準備しておいた青い液体がパイプを伝っていく。一カ所へと集められていく凄まじいパワー。
その力に空気が振動し、壁に亀裂が走る。
羽織っている白衣の裾が踊る。
青い液体が金属の塊の中央へと集まりはじめ、次第に光を放ち始めた。
その光は鼓動をするかのように強弱を繰り返していたが、次第に強い光を放ち始める。
「ここまでは想定内」
ここから先は未知の領域。
未知の領域に踏みこむ瞬間は常に心が躍る。誰も知らない世界へと飛び込むことが出来るのだから。
この世界だけは自分だけのものとなるのだから。
急速回転する機械が限界を迎え、火花と煙を上げ始める。それでもカナエは緊急停止ボタンを押さない。
ガラス越しの高官達が悲鳴を上げながら慌てふためいているのを視界の片隅におさめながらも、殆どの意識は目の前にある光景に釘付けとなっていた。
あと少し、あと少しで全ての液体の注入が終わる。
最後の一滴が注がれた瞬間、それまで沈黙をしていた金属の塊が動き始める。
『ガ・・・ガガ』
呻き声のような声を出しながらソレは起き上がると、己の中央に繋がれているパイプ、コード、チューブに気づくと、邪魔だと言うかのように全てを引きちぎる。
研究台の上から落ちたソレは大きな音を立てる。
液体が蒸発する音、真っ白な煙があがる中、ソレはゆっくりと立ち上がった。
『俺は』
「初めまして、MA−04」
混乱する金属の塊、否、すでに再起動をしたソレに向かいカナエは突き放すかのように声をかけた。