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□6話
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気づけば天井を見つめており、背中がジクジクとした痛みを発していた事から自分が仰向けに倒れているのだとティスランドは気づくと、一寸遅れて視界にいくつかのエラーが表示される。
 背中の痛みは配線がいくつか切れているということを理解したティスランドは、一体誰が自分にそんな負傷を負わせたのか確認するため視線を動かすと、すぐに犯人と目が合った。

 『悪い子にはお仕置きが必要だろ?』

バイザー越しに見える光がいつも見えるものと比べて細められていることから、恐らくジャズがかなり怒っているのだとティスランドとて理解は出来た。
 それはそうだとティスランドは思いながら、センサーを使い周りに居る者達の反応を確認する。
 突然始まった喧嘩、それを起こしたジャズとティスランドの二人を見て誰もが信じられないような顔をして立ち尽くしていた。

 【ティスランド。どうした?お前らしくないぞ?】

周りが注目していることくらいジャズは解っていた為、極秘回線を使ってティスランドに問いかけてくる。
 その声には先程までの怒りは欠片も宿されておらず、純粋にティスランドの事を案じている感情しかないのだが、何故かティスランドにはその気持ちが煩わしく感じられてしまう。
 怒りでブレインが正常な判断を下せぬ中、微かに残っていた正常な部分が自分は一体どうしてしまったのだ?と疑問を抱くのと同時に必死に原因究明をしているが、エラー箇所は見つけられない。

 【私らしい?それは一体どういう意味です?少しでも貴方の意に反したのならば、私は私らしくなく、そして悪い子になると?それは傲慢ではありませんか?】

 【ティスランド】

 【貴方と話すことはこれ以上何も無い】

冷たく突き放すかのようにそう宣言したティスランドは極秘回線を強引に断ち切る。
 困惑した視線を向けてくるジャズに対し無言のまま背を向けたティスランドは、誰に声を掛けるわけでもなくその場から立ち去る。
 向かう先はいつも待機している格納庫のはずなのに、何故かその場所に行く気にはなれない。

 『(きっと将校殿に頼まれたサイドスワイプや、ラチェットによる検診が待っている)』

突然可笑しくなった自分をあの場に居た全員が見ているのだから、そうなって当然だと判断したティスランドはフラフラとした足取りで格納庫から離れる。
 空は皮肉なくらい綺麗な青い色をしていて、あの空を飛べればとても気持ちが良いだろうなと思いながら空を見上げていたときだ。

 『・・・何故、誰も反応しなかった?』

明らかに可笑しな言動をした自分に対して、いつもならばストラトスが制止の言葉を言ってくるはずだろうし、セイは気分を害さぬように配慮しながらも落ち着くように言ってくるはずだ。
 今回に限りそれが全くなかった事にティスランドは絶句するのと同時に焦りを抱く。
 慌てて自分のスパークがある外装に手を触れれば、微かにだが二人の気配が伝わってきた。

 『いつもよりも反応が弱い。何故だ?』

こんな事は一度も無かったのに、そう思ったティスランドは明らかに自分に対して何らかの現象が起きていることを理解した。
 ジャズに対してあのように反抗的な態度を取ってしまったのも、きっとコレが原因のような気がしたためすぐさまジャズに報告しなければと思い、彼の居る場所へと戻ろうとしたときだ。

 『・・・今更、か』

まるで言い訳のようだと思ってしまったティスランドはその場から動くことが出来なかった。
 けれど自分に異常が起きていると言うことを誰かに伝えなければならない。
 そうしなければ、きっと恐ろしい事が起きてしまう予感を感じていた。

 『ストラトスもセイもいない。私だけで対処しなければならない』

それは酷く不安なことでティスランドが恐怖を抱いた時だ。

 「ティスランド?こんな所で何をしているんだ?」

現れたのはかつて護衛対象だったサム・ウィトウィッキーであった。
 かれの存在はティスランドにとって天からの救いのように感じられた。サムへと近づいたティスランドはどうやって彼の協力を得るべきか考えていると、サムは警戒心の欠片も宿さぬ目をしてティスランドに近づいてくる。

 『サム?』

 「あぁ。ごめんごめん。今の君ってさ、なんかビーが言いたいことがあるけどソレを言えない時の雰囲気に似ていたから・・・君に限ってそんな事無いのにね」

 『・・・いいや。その考えは正しいよ。サム、ひとつ頼まれてくれないか?』

 「僕に?」

 『そう。サムにだ。サムならきっと私の力になってくれるって解っているから』

縋るような気持ちを抱きながらティスランドは今、自分の身に起きている事態を急いでテキストにまとめ上げる。それに対して何十もプロテクトを行い、パスワードを知らない者が手出しできないように処理をするとコードを延ばす。

 『サムの携帯に繋いで欲しい。あぁ、安心しろ。ウイルスなんてものは送らない』

 「ホント?君は冗談は言わないけど、質の悪い悪戯はしそうだ」

苦笑を浮かべながらもサムは自分の携帯にコードを差し込む。
 流れていくデータを見たティスランドはこれで最悪な事態だけはきっと避けられた、そう思うとサムに向かい微笑みかける。

 『感謝する』

 「気にしないでよ。僕ら友達だろ?」

ニッと笑ったサムの顔がティスランドには酷く眩しく見えた。
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