迷子と鶴
□5話
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いつもよりも柔らかな布団の感触にメイコは違和感を感じ取る。
あの離れにある布団は薄っぺらいものでこんなにフカフカではない、可笑しいという違和感に顔をしかめていると、布団から嗅ぎ慣れない香りを感じ取った。
どこかで一度、嗅いだことがあるような気がしたが良く思い出せない。
状況を確認するため、重い瞼をゆっくりと開き部屋の中を見渡した瞬間、自分がどこにいるのか解らずメイコは固まった。
見覚えのない品の良い調度品、つぎはぎのない綺麗な壁紙を見ながらメイコはゆっくりと身を起こした時、ふと自分の寝間着が目に入り息を呑む。
「ッ!?」
寝る前に着ていた寝間着と違っていた。
真っ白なそれは肌触りが良く、微かに肌が透けて見えそうな薄さをしており、明らかに高級品だ。いつの間に着替えたのだと思いながら部屋の中を見渡していたとき、ある場所を見て叫びそうになった。
咄嗟に口を思い切り押さえつけて悲鳴を押さえ込む。
「(なんでここに?)」
壁に背を預けて眠っている鶴丸の姿を見たメイコは硬直していた。
しばらくの間、じっとそのままでいたが恐る恐る布団から出ると鶴丸に近づく。
「(眠ってる?)」
閉じられた瞼、規則的に動く胸元、力無く投げ出されている四肢から鶴丸が完全に眠っていることは明らかだ。
眠っている顔は人形のように精巧でその顔をそれ以上見ていることが出来なくなったメイコは、少し赤くなった頬に気づかないふりをしつつ部屋の中を見渡す。
置かれている物からも解ったが、 衣桁に掛けられている真っ白な装束を見てここが鶴丸の部屋なのだと理解する。
「(私、いつの間に離れから出たんだろう?)」
昨夜の記憶は酷く朧気なものとなっている。
誰かと会って、とても怖い思いをしたのは覚えているのだが、全くと言って良いほど思い出せないのだ。
不安な面持ちで鶴丸を見たメイコであったが、彼が何も掛けていないことに気づくと申し訳ない気持ちになる。彼はきっと、自分のために布団を譲ってくれたのだ。
音を立てないようにそっと布団を引き寄せたメイコは、鶴丸の足下からそっとそれを掛けてやる。腰の辺りまで布団を掛けたとき、突然腕を掴まれ引き寄せられる。
「ひぃッ!?」
「おいおい、随分と色気のない悲鳴だなぁ」
鶴丸の胸板に顔を押しつけられたメイコの耳に笑い声が聞こえてくる。
逃げようと身を捩るが、思い切り抱きしめられているため逃げられない。ならば叫んでしまおうか、そう思ったメイコが息を吸い込んだときだ。
「叫べば刀剣達が集まってくるぜ?みんな、これを見たらどう思うのやら」
楽しそうな声にメイコの身体が硬くなる。
遅れて震え始めた身体に気づいた鶴丸は優しく背中を撫でてやる。
「あ、あの・・・わたし、その」
「大丈夫だ。何もしてない」
その言葉を信用することは出来ない。
相手は鶴丸なのだから、と思いながらメイコは顔を少しだけ上に上げると金色の目と視線が合う。
にんまりと意地の悪い笑みを浮かべていた鶴丸であったが、メイコの瞳が不安で揺れていることに気づくと彼女を抱きしめていた腕を放してやる。
解放してくれるのだ理解したメイコは慌てて鶴丸から離れると、警戒した眼差しで彼を見つめた。
「さて、驚いてもらった所でそろそろ帰るか」
「・・・・え?」
「どうした?帰りたくないのか?」
あれだけ自分を本丸に連れて行くと言っていたのに、こうもあっさりと自分を離れに帰してくれるとは思えなかったのだ。
最悪、この部屋か近くの部屋に閉じ込められるとメイコは思っていたが、鶴丸がそう考えていないことが意外すぎて無意識の内に口から声が出ていた。
「本当なら帰したくはないさ。ただ、今回は帰さないと駄目なんだ」
少し寂しげに笑った鶴丸は羽織を二枚押し入れから取り出すと、一枚をメイコへと差し出した。