パパと呼んで
□3話
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母の視線につられるかのように若葉もドアの方を見てみると、そこには高そうなスーツを身に纏いその上から白衣を着ている男性が立っていた。
どう見ても軍関係者ではない、そう判断した若葉の中で警戒心がブワリと巻き起こる。
母を守らなくてはそう思うのと同時に若葉は身構えた時、男はにっこりと人好きのする笑みを浮かべながら口を開いた。
「・・・聞いていたよりも元気そうで安心したよ」
男が話したのは日本語だった。
それを聞いて初めて若葉は彼が日本人なのだと理解すると少しだけ警戒心が薄れたが、母の方はそうでは無かった。
「何をしに来たの」
「君の事を聞いてね。私の専門を忘れたわけではないだろう?」
「・・・だからと言って貴方を呼んだ覚えはないわ」
「つれないなぁ。とりあえず診察をさせて欲しい」
「ッ・・・入ってこないで!!!」
苦笑を浮かべながら肩をすくめた男は病室の中に入ってこようとしたが、それに気づいた母が悲鳴のような声で拒絶をすると男は意外なことにあっさりと足を止めた。
さすがに尋常ではない母の様子に気づいた若葉は母を守るかのように前に立とうとしたが、それは駄目だと言うかのように母が若葉の手を握る。
「どうしたの?」
「大人しく座っていなさい。大丈夫だから、ね?」
「だけど」
「お願いよ」
縋るように手を握ってくる母の言葉に若葉は大人しくしたがった方が良いのだろうなと思うと椅子に座り直す。
母と男の顔を交互に若葉が見て居たとき、男はジッと若葉の顔を凝視し続けていた。
「貴方からの診察はラチェット軍医が同席しなければ受けません」
滅多なことでは人を拒絶しないはずの母があからさま、とも言える態度と口調で男を拒絶する。
もしかして2人何かしらの面識があるのだろうか?そして過去に何か問題があって母が一方的に嫌っているのだろうか?と若葉が考えていた時だ。
「その子、もしかして・・・・若葉か?」
「え?何で私の名前を?」
初対面の男が名前を知っていたことに若葉は驚きながら男を見つめると、男は嬉しそうに破顔すると先程、母から入るなと言われた言葉など忘れたかのようにズカズカと病室に入ってくると若葉を抱きしめる。
「え?ちょっと・・・あの?」
「大きくなったなぁ!!!」
抱きしめたままグリグリと頭をなで回す男から若葉は必死に逃れようとするのだが、男は絶対に離さないと言うかのように抱擁をし続けていたときだ。
「若葉から離れてッ!!今すぐよ!!!」
「そんな冷たいことを言わないでくれ。こうして会うのは本当に久しぶりだ」
「何を馬鹿な事を言っているの?会わないことを決めたのは貴方でしょうっ!?」
「確かにね。でもこうして会えたのも神様の思し召しってヤツじゃないか?」
「ふざけないで!!!」
激昂する母の様子を見た若葉はこのままだときっと母の身体に良くはない、そう判断すると持てるだけの力を使って男の身体を突き飛ばす。
男は驚いたように若葉を見ていたが、突き飛ばされたことがショックだったらしく少し悲しそうな顔をした。
「貴方・・・一体誰なんですか?いきなり抱きつくなんて失礼です!!!」
さり気なく母の方へと近づきながら若葉は嫌悪感を隠さぬまま告げると、男は心外そうに肩をすくめると、一瞬だけ母の方へと意味ありげな視線を向ける。
「やめて!!」
悲鳴のような声で母が叫んだ直後、男は人好きのする笑みを浮かべながら残酷な言葉を告げた。
「若葉。私は君の父親だよ」
ようやく会えたね。
そう告げた男の言葉の意味を若葉は理解することが出来なかった。