パパと呼んで
□4話
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精神的に動揺していない若葉がメガトロンの言葉を聞いたのならば「馬鹿な事を言うな」と言って反発しただろうが、精神的に追い詰められている若葉にとってメガトロンのその発言は、黒く塗りつぶされていた心が拭われていくような気がした。
まるで救いのような言葉だ、そう思いながら若葉は目の前にある赤い瞳を見つめながら唇を動かした。
「閣下」
「なんだ?」
「私、私・・・母さんに酷い事を沢山言った。そのせいで母さんは体調を崩して苦しんでた」
「大丈夫だ。アイツの容態ならば問題はないとラチェットから報告を受けた」
「赤ちゃんは?」
「無事だ」
2人とも無事だった事に若葉は心から安心した。
ずっとずっと緊張状態だった心が少しだけ緩んだ瞬間、若葉の目から涙がボロボロとと溢れ出ていく。
ソレを止めなくては、拭わなくては、と思う若葉だったが身体はまるで石になってしまったかのように動くことはない。
「若葉」
濡れる頬を無骨な指が拭っていく。
涙を拭うという事にメガトロンは慣れてはいないのか少しばかり痛みを伴うその仕草は不快なはずなのに、若葉には何故か解らないが不快と思えなかった。
「閣下」
「なんだ?」
「助けて」
もう自分ではどうしたら良いのか解らない。
か細い声で求められた救いの言葉にメガトロンは無言のまま若葉の頬に触れていた手を若葉の後頭部に回すとそっと自分の胸元に引き寄せる。
「お前がソレを望むのならば・・・俺はお前を救おう」
それこそ持てる全力を持って。
若葉がずっとずっと欲しかった言葉。
それを与えてくれたメガトロンの上着を若葉は握りしめながら、ただ静かに涙を流し続ける事しか出来ない。
聞こえてくる痛々しい嗚咽にメガトロンはもう大丈夫だと言うかのようにそっと若葉の身体を抱きしめる。
「だからもうお前は何も考えずに眠れ」
優しく愛おしむかのように若葉の背を撫で続ける。
疲弊していた若葉の目は少しずつ閉じられ、最終的には力無く閉ざされて静かな寝息をたてはじめた。
このままでは風邪を引かせてしまうと思ったメガトロンは着ていた上着で若葉を包もうと思ったのだが、その上着を若葉ががっちりと掴んだまま眠ってしまっている事に気づくと苦笑を浮かべる。
口や態度は全くと言ってい意程素直ではないが、こうした態度にときおり若葉の本心が出てしまっていることをメガトロンは好ましく思っていた。
「だからこそこの代償は支払って貰うぞ」
最愛の女性にも若葉にも見せることは決してないどう猛な笑みを浮かべながらメガトロンは告げた。
その相手はここには居ない男だ。
「閣下。サウンドウェーブが令の研究室の解析を終えたようです。やはり人間には解らない特殊な電磁波が密かに放たれていました。その電磁波は人間の精神を乱す効果があるとのことです」
護衛として側に待機をしていたスタースクリームが告げた言葉にメガトロンはサウンドウェーブにしては手こずったな、と思いながら頷く。
「様子がおかしくなったのはそのせいか」
原因が分かってしまえば何もかもが理由のつくことでしかない。
いつもの若葉ならば決してしなかっただろう母への暴言もその特殊な電磁波の影響だろうとメガトロンは判断すると、すぐにでもサウンドウェーブの元へと向かい詳しい報告を聞くため彼の元へと向かう事を決めると若葉の身体を抱きかかえたときだ。
メガトロンに対して爽やかな笑みを浮かべながら手を差し伸べているスタースクリームの姿があった。
「その手は何だ?」
「ご息女は預かりましょう」
「・・・不要だ。この愚か者めが」
両手が塞がっているメガトロンは足でスタースクリームを思い切り蹴り飛ばす。
この部下に若葉を預けたのならば密かに若葉の身体をスキャンし、色々と不要な情報を入手するだろう事は解ったからだ。
ブツブツと文句を言うスタースクリームの姿を見つめながらメガトロンは目的地へと向かって歩き出した。