Over

□1話
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 疲れたような雰囲気をした一台の車が格納庫にある。
 白い車体には傷一つ無く、この国では珍しい日本車であるソレは先日、新たにオートボットの仲間になったティスランドだ。
 そんな彼女の前には二人の軍人が困った顔をして立っている。

 「ティスランド」

レノックスの呼びかけに対し、ティスランドは何の反応も示さない。
 いつもならば何かしら返答するはずの彼女の態度に対し、レノックスは隣に立っているエップスを睨み付けた後、心底申し訳ないと言うかのような声で話しかけた。

 「・・・すまなかったな」

一歩近づいたレノックスはティスランドのボディをそっと撫でた。
 労るかのようなその仕草にティスランドは一度だけヘッドライトを点灯させる。しかし、動きはそれだけで音声を出すことはしない。
 よほど機嫌が悪いのだと判断したレノックスは困ったように頭を掻く。
 この新参者に何と言えば良いのか彼には解らない。
 
 『レノックス少佐』

 「ん?どうした?」

反応してくれたことが嬉しかったらしいレノックスが笑みを浮かべる。
 その笑みを見つめながらティスランドはためらいがちに声を出す。

 『仕方ないことです。そもそも、私が日本車をスキャンしたのが原因なのですから。大人しく言われたとおりにこの国の車をスキャンしておけばこのような問題は起きなかった』

 「どの車をスキャンするのかはお前達の自由だろ?そもそも今回の件は、調子に乗った俺達に全ての原因がある。本当にすまなかった」

ティスランドであった前が日本人だったせいなのか、ティスランドがスキャンしたのは日本車であった。
 デザインが気に入った、そんな簡単な理由でスキャンした車は実は高級車だったらしく、そのもの珍しさからNESTの軍人達が次々やってきては乗車したり、運転をしに来たのだ。
 時々ならばティスランドも快く彼らの申し出を受け入れるのだが、彼らは遠慮しないタイプらしく時間を見つけてはやって来るのだ。

 『貴方が謝る必要はありません。レノックス少佐・・・貴方は任務でここから離れていたのですから』

 「だとしても俺は此処の責任者の一人だ。生まれたてと言って良いお前に必要以上に構うなと言ってあったんだが・・・」

ジロリと隣に居るエップスを睨み付ける。
 レノックスの言ったようにティスランドは今後の身の振り方を考えたかったのだが、休む間もなくやって来る軍人達により、考えることなど何も出来なかった。
 我慢に我慢を重ねた結果、ある日突然、ティスランドは反応も示さなくなったのだ。
 ソレを見たエップスを筆頭とした軍人達はやばい、と焦りを抱いたのと同時に任務を終えたレノックスが基地へと帰還した。
 此処との詳細を聞いたレノックスは呆れ半分、怒り半分と言った気持ちで格納庫に来たときには、すでにティスランドは完全にストライキを起こしており誰の言葉にも反応を示さなくなっていた。
 
 「俺からも謝る。悪かったな、ティスランド」

 『貴方の言葉は信用出来ない、エップス軍曹。口ではいつもそうやって謝っておきながら貴方が一番私を良いように使っていた。』

 「あ、いや・・・それはな?」

 『買い物に行くやら、ナンパに行くやらで私を足に使っていたのは貴方だろう?それを見た他の軍人達が私を私用車として扱い始めた』

まさかの報告にエップスの顔から血の気が引く。
 チラリと隣に居る親友兼上官を見てみると、彼は明らかに怒っていた。

 「・・・俺は忠告していたはずだぞ、エップス」

 「だって考えてみろよ?日本車だぞ?高級車だぞ?ティスランドで移動すると周りの目が良い感じに向けられて調子に乗っちまった。おかげでナンパの成功率も高い!」

 「成る程。それでお前等は次々とティスランドに乗ってデートやら、ドライブやらに出かけていたって訳か」

呆れてものが言えないと言うかのようにレノックスは自身の眉間に手を添える。
 その姿を見て苦労しているなとティスランドはひっそりとレノックスに同情していた。

 「こんな事が起きないように今後はする。・・・まぁ一番良いのはお前さんも任務に同行出来ることだな。後でオプティマスに頼んでおく。そうしたら、こんな問題から解放されるだろ?」

 『・・・・それは私とオートボットとの問題だ。貴方には関係の無いことだ、レノックス少佐』

他のオートボット達はディセプティコンの残党狩りに出ている。
 バンブルビーのみ、サム・ウィトウィッキーの元に行っているのだが、他のオートボット達はNEST基地に居るようになっているのだ。
 生まれて間もないという理由からティスランドは、大人しく基地で待機しているようにと命令が下されている。
 だが、本当のところはそれだけではないことくらいティスランドも理解していた。
 信用されていないのだ。
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