パパと呼んで

□4話
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自らを父親だと名乗った男を若葉は黙って見つめる事しか出来ずにいたが、男のいっている事が本当なのか確認するために母の方へと視線を向けてみると、そこには怒りで顔を歪めながらシーツを握りしめている母の姿があった。
 滅多なことではこうして他人に対して敵意を見せることをしなかった母が、外面を取り繕うのを忘れてしまっている、それはつまり男のいっている事は本当なのだという何よりの証明だった。

 「病人の前で騒ぐのは止めて欲しいのだが?」

刺々しい口調と共に表れたのはラチェットで、彼の姿を見た母は味方が現れたことに対して安心したらしく、ぎこちなく微笑みながら縋るようにラチェットを見つめていた。
 母の言いたいことを瞬時に理解したラチェットは任せておけと言うかのように一つ微笑む。

 「レノックス大佐が探されていましたよ?勝手な事をされては困ります」

 「あぁ、これは失礼した。だが患者の容態をこの目で確認しておきたくてね。来る途中に胎児のデータを確認したのだが、あまり状態が良くはなかったからな」

胎児、その言葉を聞いた若葉は慌てて母の方へと視線を向けると、母は若干青ざめた顔をして自分の腹部を押さえていた。

 「母さん、大丈夫だよ。ね?」

血の気の引いた母の肩を抱いた若葉は母が震えていることに気づくと、少し横になった方が良いと判断すると母をベッドに寝かしつけようとした時だ。

 「手伝います」

どこからか現れた青い髪をした青年が若葉の手助けをしてくれる。

 「・・・ありがとうございます」

青年と協力して2人で母をベッドへと寝かせつけた若葉は、父と名乗った男に対してデリカシーの無さに対して文句を言ってやろうとしたときだ。

 「教授。貴方は何のためにここに来たのだ?患者の前で言って良いことと悪い事があるだろう?」

若葉が抗議をするよりも早く口を開いたのはラチェットだ。
 鋭く細められた目と、不快だと言うかのような声音で抗議をするラチェットの姿を見た若葉は驚いたようにラチェットを見つめる事しか出来ない。
 若葉が知っているラチェットとはいつも優しいお医者さん、という印象しかなく、こんな風に怒りを露わにするとは想像出来なかった。
 怒るにしてもやんわりと苦言を呈するか、相手が何が悪いのかとことん話し合うタイプのような気がしていたため少しばかりラチェットに対するイメージが若葉の中で変わった。

 「先生はいつもあんな感じですよ。若葉さんにだけ激甘対応しているだけです」

 「ジョルト。黙っていなさい」

 「はい」

ジョルト、と呼ばれた青い髪をした青年は肩をすくめると若葉に対して人好きのする笑みを浮かべながら右手を差し出してくる。

 「ラチェット先生の助手をしているジョルトと申します。初めまして」

 「若葉です」

差し出された手をそっと掴むとジョルトは嬉しそうに微笑みながら握手している手をブンブンと振った時だ。

 「解った解った。貴方達、金属生命体の言い分はご尤もだよ。全く・・・遠路はるばる私がわざわざ来てやったのはそちらが要請したからだろう?私達よりも優れた技術力を持っているというのに、人間と金属生命体との間に出来た胎児への対応が出来ないと言うから忙しい中でも時間を作って足を運んでやったんだ。それなのに良くもまぁそんな事が言えたものだ」

吐き捨てるかのような父の言葉に若葉はこの人は何を言っているのだ?と言うかのような顔をして父を見つめる事しか出来ない。
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