パパと呼んで

□6話
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 若葉がサイドウェイズに対して抱く印象というのは、自分への自己嫌悪感が強いせいか気弱な雰囲気をしている青年というものだ。
 事実、何度か言葉を交わしたサイドウェイズは内心こそどう思っているのかは解らないが若葉に対して腰が低く、若葉の機嫌を損ねることを恐れているかのような言動や態度をしていた。

 「その子から手を離せ」

その彼から想像出来ない程の強い怒りと憎しみで若葉を掴んでいる男達を睨み付けていた。
 右目は負傷しているのか赤い光は消えており、残った左目がその分強い光を放っている。 鋭いその眼力に若葉の腕を掴んでいた男が声にならない声を上げながら、慌てて若葉から手を離す。
 若葉の方へと近づこうとしたサイドウェイズだったが、その身体がガクリと大きく前に傾く。

 「サイドウェイズさん!」

割れたガラスの中に頭から突っ込みそうになったサイドウェイズの姿を見た若葉は、彼の身に何があったのだろうかと思いながら慌ててサイドウェイズへと近づき、そっとサイドウェイズの肩に触れる。
 服越しに伝わってきた体温はまるで燃えているかのように熱かった。
 それこそ人の平熱というものを越えている事は明らかで、サイドウェイズの身に緊急事態が起きていることが理解出来た若葉は助けを求める為に視線を彷徨わせるが、この場に自分達を助けてくれるような者は誰も居ない。

 「かなりの時間電流を流していたのだがまだ動けるか。なるほど・・・お前達のその姿は見た目に反してかなりの強度があるらしいな」

感心したと言うかのような口調で父が告げた発言に対し、若葉はサイドウェイズが拘束されていた姿を思い出す。
 四肢を拘束され、電流を長い間流されていた、ソレを理解するのと同時に父に対して強い怒りを抱く。

 「若葉。ソレを父さんに渡しなさい。彼にはまだ私の研究に協力して貰わなければならないのだから」

朗らかに微笑みながら手を伸ばしてくる父の手から、サイドウェイズを守るかのように若葉は彼の頭を抱きしめる。

 「父さんを困らせないでくれ」

困ったように肩をすくめた父が向ける眼差しは酷く冷たく、そして思うように事を運べない事に対する苛立ちで満ちていることに若葉は気づく。
 下手に逆らえばまたきっと暴力を振われる。
 ジクジクと痛む頬、他人からの容赦ない暴力に身体が竦む。

 「さぁ若葉。良い子だから父さんにソレを渡すんだ」

 「・・・いやだ」

縋るようにサイドウェイズの頭を抱きしめれば、もう良いと言うかのようにサイドウェイズの手が若葉の背を軽く叩く。
 全く力の入っていないソレに気づいた若葉は父に対しても、サイドウェイズに対しても、自分はこの手を離すつもりはないのだと言うかのようにギュッとサイドウェイズの頭を握りしめた。

 「聞き分けのない子だ・・・お前がそういった態度を貫くというのならば、私としても少しばかり乱暴な手段を執らねばならないな」

浮かべていた全ての表情を消した父の顔を若葉は今にも泣き出しそうな顔をして見つめる。
 この人と自分は血の繋がりがあるはずなのに、何故こうも言葉が通じないのだろうか?気持ちを解り合うことが出来ないのだろうか?
 ソレを声にして問いかけたいのだが、コツコツと音を立てて近づいてくる父の雰囲気が問いかける事を決して許しはしない。

 「若葉、俺は良いから・・・逃げてくれ。頼むよ」

 「良くないッ!!絶対に嫌だッ!!!」

掠れた声でサイドウェイズは逃げるように懇願するが、その言葉に対して強い声で拒絶するのと同時にギュッと目を閉じるとサイドウェイズの頭を思い切り抱きしめる。
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