短編
□その色を持つ者
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シャッターがその機体と初めて出会ったのは、その機体の部下として配属されたの時が最初の出会いだった。
手入れのされた色の濃い紺色のボディ、柔からそうな目元、育ちの良さを思わせる品の良い動きは見るからに軍人としては不釣り合いで、誰かのペットとして飼われているのがお似合いだと密かに嘲笑いながらもそれを顔には出すことせずにシャッターは上官に敬礼をした。
『シャッターです。本日付でナナシ隊に配属となりました』
『この度、君の上官となったナナシだ。よろしく頼むよ、シャッター。君の事は色々と聞いている。我が隊には飛行能力を有する者は居ない。君のトリプルチェンジャーとしての能力は即戦力として期待している』
『はっ。全力を尽くします』
新たな上官は外見と同じく軍人としてはらしくない柔らかな口調で挨拶をする機体だった。
故にシャッターはこの機体がどうせ隅々まで手入れのされたご自慢の身体とやらを使って、この地域一帯を取り仕切っている指揮官に付けいり、今の地位を得たのだろうなと判断していた。
顔や態度にこそ出さなかったがシャッターはナナシを内心口汚く罵っていた。
実際、上官であるナナシは横暴な態度を取る指揮官に対しても、反発することはせず与えられた命令を黙々と受け入れていた。
最悪な部隊に配属になった、そう1人で思いながら任務を淡々とこなす日々を行っていたある日のことだ。
らしくもなく敵を深追いしすぎ、気づけば敵の罠にはまってしまっていたことに気づいたときには既に周りはオートボット軍だらけになっていた。
『シャッター。君の能力は私も良く解っている。だけど無理だけはしてはいけないよ?個人の能力には限界がある。我々は同じ軍に所属している者。言わば・・・そうだな、同志なのだから必要なときは協力をすべきなんだからね』
与えられた任務を無視し、単独行動で敵を倒すシャッターに対してナナシは困った子だと言うかのような口調でやんわりと苦言を呈してきたときの記憶が蘇る。
あの小生意気な上官はにっこりと微笑みながら『困ったことがあったら私に通信してくるんだよ?』と言って説教を終えたのだ。
あの時は全身のオイルが沸騰するかのような屈辱をシャッターは感じ取っていた。
けれどナナシの言っていたとおり、シャッター個人の能力には限界があり、そしてその限界を見誤ったシャッターはこうして敵陣の中で孤立してしまった。
『ッチ』
舌打ちをするのと同時に救援信号を送るが、それに答えてくれるだろうお優しい仲間が一体どれほど居るのだろうか?と考えながら、襲い来る敵を倒し続けていたのだが多勢に無勢という事もあってか、気づけば地面に引き倒され頭に銃口を押しつけられていた。
『情報を吐けば命は助けてやる』
『誰が教えるものか。欲しいのならば勝手に奪い取ってみろ・・・あぁ。お前達程度では私のセキュリティを突破することなんて不可能か』
『なっ!?』
『情報が欲しいのならば這いつくばって懇願するのならば考えてやっても良いぞ?』
嘲笑うかのように告げた言葉に対し、敵が目の色を変えた瞬間、シャッターを襲ったのは容赦の無い暴力だ。
腕が折れ、足が吹き飛ばされ、カメラアイが一つ機能を停止した時だった。
『あぁシャッター。ようやく見つけたよ』
戦場にしては場違いな程の穏やかな音声が辺りに響く。
その場に居る者達が全員、音声のした方を見る。
シャッターも残ったカメラアイで音声が聞こえた方を見たとき、彼女は我が目を疑った。
そこには紺色の身体に頭からオイルを浴びた上官の姿があったからだ。
ゆったりとした足取りでこちらに近づいてくる上官、ナナシの手は何かを掴んでおり、彼が歩く度にズルズルと何かが擦れる音が不気味に木霊する。
『・・・・は?』
『オイ。アイツが引きずってるの、見張り役のヤツじゃないか?』
敵兵の1人が信じられない者をみるかのような眼差しでナナシを見つめていたが、ナナシが引きずっている者の正体に気づく。