もうひとりの主人公編 弐

□第玖話【外の世界】
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『...美味しそうな香りがしますね。嗅いだ事のない匂いです』




丁は部屋へ戻る際、ポツリと呟く。
しかしその吐きは彼女には届いてないようだ

丁は匂いに誘われるまま、リビングテーブルへ向かう。




『(これでしたか...)あ、また朝餉がかわってるのですね』




丁は机に置かれているモノに目をやる
そこには、昨日とはまた別の料理、容器が置かれていた

少し湯気は収まっているようだが、まだ暖かい




吉良は数品のおかず(冷食)をお盆に乗せ、丁のいるリビングへ持ってくる






「あれ?もう流石に驚かないねー?慣れちゃったかな?」




彼女はお盆から料理を下ろすと、口元に片手を添えくすくすと苦笑している



『...ゥワーマタミタコトモナイモノガデテキマシタネー』




丁は吉良に対しての、彼なりの気遣い(?)をする。しかし目はいつものようなキラキラとした目ではなく、ジト目に近い。
むしろ死んでいるきさえする。

正直余計な気がしてならない






「棒読みでそんな目するくらいなら言わんでいい!!」

『あ、はい。分かりました』




丁はぱっといつもの顔に戻り、机に置かれているものを眺める
印象としては、なんだかふわふわしてそう。
それと全体的に黄色い?

―――――セ○ンの親子丼だ。





「...まあいいさ。じゃあご飯冷めないうちに食べようね!!」

『...コクリ』



丁は小さく頷く。






「『いただきます!!』」






二人は朝餉にありつく

今日の献立は丁が親子丼と豚汁。吉良はサラダとうどんだ。
あとは冷食のおかずがちらほらである





『...っ!!?』

「ど、どうかな...?」


『...っすごい。昨日食べたものよりも美味しいです!!』




丁は一口食べると目をカッと見開き、そう言う
余りにも衝撃的な食感と味だ。




「さ、さよか...まあ丁くんが気に入ってくれたんなら、よかったよ。」

『凄く美味しいです!!こんなふわふわしたモノ初めてですよっ』




丁は間髪いれずに口の中に頬張っていく。
両頬にはご飯が詰まっているようだ

完全にリスにしか見えない




「...ちょ、丁くん。落ち着いて?誰も取らないからね?喉詰まらせちゃうからね」





吉良は困った顔で丁を諭してくる
しかし丁はそれを拒否しているかのように、どんどん頬張っていく

両頬がパンパンである


すると、





『...っつげっほ!!!!!??』

「丁くん!?」





案の定丁はご飯を喉に詰まらせた。

鎖骨付近を叩くが効果なし。
かなり苦しい状態だ




「は、はいお茶だよ!!ゆっくり飲んで!?」

『...うっ』




丁はお茶を受け取ると、小さく頷き飲み干す
喉元が上下に動くたびに両頬に詰まっていたものが下へし下へと流れていくのがなんとなくわかる




「だ、大丈夫?丁くん」


『...っぷは!!あ、あの世とっ現世を行き来してたっ気分でした...はあ。』




丁はふうと眺めに息を吐き、未だに鳴り止まぬ心臓の音を落ち着かせようとする





「もー...だから言ったじゃない!!喉詰まらせちゃうよってっ」

『...申し訳ございません。』


「はいお茶。まだいるかな?」




丁はこくりと頷き、2杯目を受け取る
一見普通のお茶が、今だけは神の恵みにみえたのだった



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「ごちそうさまでした!!」

『ごちそうさま、でした...』





丁はどこか疲れ果てた感じで合唱する

そして、何やら意気込んだ感じに拳を握ると
徐ろに本や辞書 ドリル等を取り出し勉強を始める

しかし、





「はいはーーーーーい。ストップストップ!!!」





吉良に制止させられる。
丁は眉をピクリと跳ね上げさせ、明らかに不機嫌ですと言わんばかりの顔を向ける





「まあまあー今日はね、丁くんのお洋服とかお布団とかー...まあその他諸々を買いに行きたいと私は思っています!!異論は認めません」




丁は昨日のことを思い出す。

―明日は起きるの早いからね?覚悟しといてね―




『...あっ!!昨日言っておられたことですね。...つまり外へ行かれるのですね!!!』





どうやら初めてのここの外へ連れて行ってもらえるようだ
ベランダで見た風景が丁の脳裏をよぎる――――



『(一体どんなところなのでしょうか...)』




丁は先程まで不機嫌だったのが、嘘のように明るくなりうきうき気分になるのであった――――――――
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