もうひとりの主人公編 弐

第拾弐話【お空言。】
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二人は夕焼け空で橙色に染まった道を、ゆっくりと歩く
彼女の両手には、たんまりと食材が敷き詰められている袋が2つ、実に重そうだ。

そして自分の手にも袋が2つ。






『(今日はとても満足です。私の人生の中で一番素晴らしい日でしたね)』





丁は顔には出さなくとも、うきうきとした足取りで表現する
誰が見てもどう足掻いても、丁がご機嫌なのは一目瞭然。





「今日は素麺で本当に良かったのー?」

『はい!!...見たこともない棒だったので、一目見て食べたくなりました!』




丁は吉良が担いでいる、大きな袋を真剣そのものの顔で見つめる

彼の目に映る素麺は、黄金に輝く棒にしか見えていない。

現代人にとってそれは、不可解極まりないもの






「そっかあ〜...でも麺が見たことないなんて、いよいよ本格的に..あれなのかもなー」




丁は彼女の視線に気づく。
何をそんなに見てるのでしょうか?

丁は眉を八の字にし、彼女を見返す




『.........あれ、とはなんですか?』

「んー......丁くんが私の住んでるところにタイムスリップ、もといトリップしてきたんだと思うの」


『た、たいむすりっぷ...?』





聞いたこともない"言葉"。
眉に一層のシワが寄るのが自分でもわかった

理解に苦しむ言葉です...
うーん??






「あー...なんと言いますか、丁くんだけが私の世界にこう..びゅーんとね?
ほら、丁くん見たこともないものばっかりだったでしょ?」





びゅーん?びゅーんって何がびゅーんなんでしょうか。

...しかし、心当たりはあります
確か、突然頭が痛くなったとおもいきや..聞いたことのある声――――
そう、吉良さんのお声に似た声だった気がします
それに寝ている時にいつの間にか居た―――...誰でしたっけ?


まあ、私が居た場所にはないものばかりでしたね





『確かに......見たことがあるとすれば、空くらいしか分からないかもしれませんね』

「そ、空だけって........」





丁はそう言うと、夕暮れの赤みがかった空を見上げる
あの時も確か、このような感じだった気が―――

目の端で彼女が口角を上げてるのが見えた
...笑っている?





『...やはり、空は不思議ですね。』

「...え?」





丁の言葉の一つ一つが、空に向かってプカプカと浮いていく錯覚を覚える

その光景が実に面白い。





『だってそうでしょう?...私と吉良さんの住んでいる世界は違うのでしょう?なのに一緒なんですよ。
これが不思議以外なんなのでしょうか?』


「...確かにそうねえ。丁くんの世界がどんなトコか判らないけど、空だけはきっとずっと一緒なのかもねー」





彼女が隣に立つ気配がする
同じ空を見ているのでしょうか?





『(空は何故、こんなに綺麗に色づくのでしょうか...?)』


「『??』」














帰路への道を歩いている途中、川のせせらぎの音が聞こえてくる
耳に心地のいい音色ですね...





『近くに川の音がしますね。』

「ん?あーこの近くに小さな川ならあるよー。こっちこっち!」








―――――『...なんですか。この浮いているものは』

「泡とかゴミ?」





丁は汚物を見るような死んだ目で川を見つめる




『...私が住んでいた世界では、川は飲み水や生活に必須なものだったので.....
ここまで汚くはなかったですよ。むしろ澄んでいました』





そして彼女にも死んだような目を向ける丁。





「え!?飲んでたの!!!?無理だよ。こんなの飲んだら死んじゃうよ?」





丁は眉間に深く深く眉間にしわを寄せ、じとりとした目で見る
飲むわけ無いでしょう。






『...ここまで酷くはなかったと、言っているのですが..』

「...私が物心ついた時から、川汚かったよ」















―――――――――話を聞け。
 

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