もうひとりの主人公編 弐

第拾肆話【長身の鬼灯の背紋】
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ここは――――――

どこでしょうか?


暗い 寒い 冷たい 無機質


手を動かしてみるも 空を切るのみ。
目を開けているのか はたまた閉じているのか

それさえもわからない


吉良さん.........吉良?


誰 でしたっけ





―――――君の家族。身内になったげるよ!!―――






あァ...私の家族。
いえ、私には血の繋がった者などおりません

では彼女は一体?

わからない
わからない




忌み子なぞ身内にして 何がしたいのか
怖い

怖い

恐い






"――――――何をそんな所で蹲り、怖がっているのですか"


誰ですか
誰かおられるのですか!!?




"こちらです。見えませんか?"





後ろからの声に振り向けば
視界が黒く闇一色だったものが 白へと染まっていく

遠くには 黒い着物を着た男が一人 椅子に座ってこちらを見ていた


恐い
何故ここに?

何方でしょうか
彼女の知り合いでしょうか?




"知り合い...と言えば知り合いですね。あの方とはまだ現世での面識はありませんがね"




心が読める!!?
...益々怪しい

何者なのでしょうか




"...気になりますか?私が誰か、"




っ...全てが筒抜け。

ええ、気になります。貴方は一体誰ですか?
そして此処はどこでしょうか?




"まあ、積もる話はお座りになってからにしましょう。此方へ来なさい。一つ椅子が御座いますので"




気づけば先程まではなかった椅子が、一つ増えていた
まさか神通力が使える者!?

ではあの巫女様と同じなのでしょうか?




"違います。私は力といっても腕力や知恵等しかありませんよ。"




では何故椅子が――――――...
今それを聞いても、恐らく答えは出ないでしょうね
分かりました。言う通りにします


そう決意すれば いつの間にか場所が変わり、黒い着物を着た男の隣の椅子にいつの間にか座っていた





"貴方はとても用心深いですからね。多少は時間がかかると思っていましたが、案外早かったですね"




何故それを!!?
...環境の所為でしょうね。

大胆になど動いてしまえば 何をされるか分からないですし
ですが、罰など もう慣れてしまいましたが




"罰―――痛みに慣れてしまったからこそ、彼女の対応や笑顔に戸惑っておられるのですよね"




...そう。
あの方の笑顔が眩しい

あのように笑う方を見たのは 生まれて初めてだ
綺麗、とも言うべきもの


それに最初にきて、言の葉の壁があるにも関わらず 親切に教えてくださった
そしてヒトに初めて手を引かれた、あの手の温もり

剰え傷さえも変な箱から出した物で治してくださった

お礼を言いたくても 言いたくても
言いきれないほどに、彼女にはたった数日で沢山のことを教えて頂いた




"そうですね...では何故そんな彼女を怯えるのですか?剰え、家族になろうと言って下さったのに"




解らない...

言い知れない 言い知れない恐怖
今迄感じたことのない感情ばかりで 全くついていけていないから。

己が変わっていくのが怖い
笑いたくなくても 彼女につられて笑ってしまう

怖い


何もかもが怖い
ならばいっそ、前の場所で何もなく無のままで過ごしていた方が楽なんです

でも私の"中"は違うと言っている
もっと傍に居たいと

彼女をもっと知りたいと 思ってしまう
思考と中が全く真逆。

どうすればよいのでしょうか...




"ふむ...そうですね。何方も大切ではありますが、一先ずは中を優先されては如何でしょうか?"



中を?
...確かに、あの方が私を引き離すのが何時かも分かりませんし、其方の方がいいですね

ですが、家族というものが私には分かりません
何をすれば良いのでしょうか?
村では遠目からしか見たことがないので、




"そうですねー...まあ、今は言葉を――読み物を読むことに集中しなさい。そうすれば、きっと彼女も喜んでくださいますよ"




読み物...

そうですね。言の葉を覚えるのが先決ですよね
会話というものは大切ですから




"よく解っておいでですね。...おや、そろそろ時間ですね。今日はこの辺でお開きに致しましょう"



はい。今日は色々と有難うございます
初対面の方なのに、悩みに乗って頂き助かりました
お陰で少し、彼女と関われそうです
もっと...彼女の喜ぶ顔がみたいですから!!



"いい心がけです。是非頑張りなさい それでは、私はこれにて失礼致します"



あ!!お待ちくださいっ
お名前を!!お名前を教えて頂けませんか!!?




"―――――名乗る程でも御座いませんよ。また何時かお会いする時にでも"




お待ちください!!

ぐっと限界まで手を伸ばすが 近くにいたはずの男性が既に遠くにいる

もはや手の届かぬ彼方へと
それでも、届くと信じて、真っ直ぐに伸ばす


すると突然一瞬の白い光―――――――――

前が全く見えない
何も感じない。


眩しい。―――――――...













そう思っていると、突然視界が開ける
そこはいつもの彼女の家屋
彼女と一緒に寝ていた布団の上―――――ではなく、視界には木の板が広がっていく

徐々に迫る木の板たち

あァ...これ、床に落下してるんですね

なんて思っていると、案の定鼻と顎と額を強打した
とどのつまり、顔面から落下していた





『......』



あの男性の名前が聞けなかった
あの方は一体何者だろうか
そしてあの空間は一体?

夢、というべきなのだろうか

それにしては現実味を帯びていて、夢のようには思えない

なんだったのだろう か








............痛い。

じんじんと顔面に痛みが増し、そこで思考は終わった。
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